シンクライアント環境構築事例川崎信用金庫 業務を支えるシンクライアント基盤をHCIで刷新し地域密着型金融の“深化”を推進

川崎信用金庫は創立以来堅持する地域密着型金融の“深化”に向け、働き方改革とデジタル変革を推進している。その一環として、VMware vSANベースの仮想サーバー基盤によるシンクライアントシステムを実現した。その刷新に向け、新たなインフラに採用したのが、デル・テクノロジーズのHCI製品だ。課題となっていたパフォーマンス劣化を解消し、年間1万4000時間のムダを削減。システムの信頼性もアップした上、基盤の増強に柔軟に対応できる拡張性を確保できたという。

脱炭素社会の実現に向けて、お客さまニーズに応え、地域発展のために尽くす

川崎信用金庫
事務部 調査役
山田 健太氏

1923年に創立し、2023年に創立100周年を迎える川崎信用金庫。地域から「かわしん」の愛称で親しまれ、川崎市を中心に横浜市、都内に計56店舗を展開している。

地域の中小企業、ならびに地域に住む・働く人の夢の実現を応援する『この街のベストサポーター』であり続けるために、2021年度に策定した新中期経営計画「かわしんプラン 2021-2023」では、以下の3つを経営課題に掲げ、役職員一同が全力で取り組んでいる。

それは「地域の課題解決に向けた支援ネットワークの充実強化」「デジタルトランスフォーメーションによる働き方・業務改革、店舗運営改革の実現」「提案力強化とかわしんの企業価値の向上」である。

「この3つの経営課題は密接に関連しています」と話すのは川崎信用金庫の山田 健太氏だ。「デジタル技術を活用して業務改革を進め、効率化・生産性向上を図ることで、お客さま対応により多くの時間と人員を充てる。これによって、かわしんのサポート活動を高度化し、外部機関との連携による伴走支援も強化していきます。コロナ禍の中でも対面・非対面営業ツールを活用したコンサルティング機能の向上や、デジタルトランスフォーメーションによる業務改革等に取り組んでいます」

こうした考えに基づき、新たなビジネスの創出支援にも注力している。具体的には、2050年のCO2排出実質ゼロを目指す、川崎の脱炭素戦略「かわさきカーボンチャレンジゼロ2050」に賛同し、SDGsや脱炭素社会の実現を目指し、川崎市や地域の方々と連携し、地域発展に向けた取り組みも進めている。その一方で、顧客企業の販路拡大や新たなビジネス機会を提供するため、各種商談会や経営課題をトータルサポートするWebプラットフォームサービス「Kawasaki Big Advance」等を活用し、ビジネスマッチングの支援にも取り組んでいるという。

シンクライアントのブートストームに悩まされた

川崎信用金庫
事務部
穂坂 佑希氏

こうした活動を推進するためには、職員が働きやすい環境の整備が重要となる。そこで、同金庫では早くから働き方改革に取り組んできた。その一環として、2013年11月に統合業務システムを刷新し、仮想サーバー基盤をベースとするシンクライアントシステムを実現した。

業務システムはその使い勝手が業務効率に直結する一方、極めてセンシティブな個人情報を扱うため、情報セキュリティには万全を期すことが求められる。「効率性とセキュリティをいかに両立するか?この要件を満たすため、情報の一元管理が可能なシンクライアントシステムを採用しました。多様な業務システムやデータを一元管理でき、情報漏えいリスクも極めて低いからです」と山田氏は説明する。

このシンクライアントシステムは役員を含む全職員が利用する重要システムである。導入後はハードウエアの更改時期に応じてリプレースを行ってきたが、現行システムは直近のリプレースから約5年が経過し、様々な課題が顕在化していたという。

パフォーマンスの劣化はその1つだ。「業務開始時刻にログオンが集中し、起動に5~10分くらいかかってしまっていました。起動後30分くらいはサーバーの負荷が高く、動作の遅延があることもありました」と山田氏は打ち明ける。

サーバーの負荷も増大し、業務系サブシステムのレスポンスが遅くなったりすることもあった。「システムにアクセスするのに時間がかかる。ドキュメントを保存しようとして何回もアクセスする必要がある。そんな現象も発生していました」と同金庫の穂坂 佑希氏は振り返る。

データのバックアップにも非常に時間を取られていたという。データはLTOテープでバックアップしていたため、10分程度の時間がかかっていたが、バックアップに不備があった場合、LTOテープを取り換え、一からバックアップをやり直さないといけない。その手間も大きな負担だったという。

デル・テクノロジーズ製品のコストパフォーマンスとVMware製品との親和性を評価

課題解決に向け、既存のブレードサーバー基盤から、新たなインフラへリプレースを考えたが、人的リソースやコストは限られる。「最適なコストでシステムのパフォーマンス向上を図り、なおかつ導入後の運用管理も効率化できることが重要な要件でした」(山田氏)。システム更改を機に導入や拡張が容易で柔軟性の高いHCIにすることを決め、2018年3月から検討を開始した。

そうした中、協力ベンダーの1社である日本ユニシスから提案を受けたのが、デル・テクノロジーズの製品である。「ハードウエアの性能や信頼性が高く、コストパフォーマンスに優れ、VMwareとの親和性も高く評価しました」と山田氏は選定の理由を述べる。シンクライアントのソフトは、Citrix Virtual Apps(旧Citrix XenApp)だが、仮想サーバー環境はVMwareベースで構築していたからだ。既存スキルを生かした運用が可能になる上、デル・テクノロジーズのVMware製品での豊富な実績も加味すると、システム全体の安定性向上も期待できる。

同金庫の求める要件をカバーするため、デル・テクノロジーズは機器選定をサポートし、最適な構成環境なども提案した。こうして新たな基盤として、インテル® Xeon® スケーラブル・プロセッサー搭載の「Dell EMC PowerEdgeサーバー」(以下、PowerEdgeサーバー)とストレージ仮想化ソフト「VMware vSAN」で構成するHCI基盤を採用。また、そのシンクライアント基盤はパフォーマンス向上のため、“オールSSD”構成とした。さらに、バックアップ用途のストレージにはバックアップ専用アプライアンス「Dell EMC PowerProtect DD」を採用した。

「現場の職員からすれば、業務基盤は正常に動いて当たり前。安定稼働に対する大きなプレッシャーと責任感を感じていました。クライアントのスムーズな動作確保、ブートストーム回避のためには“オールSSD”が有効との日本ユニシスの提案を受け、これを選択しました」と山田氏は振り返る。

プロジェクトは2018年10月よりスタートし、段階的に基盤刷新を進めていった。まずPowerEdgeサーバーを6台、PowerProtect DD3300の重複排除ストレージを2台導入し、日本ユニシスのデータセンター内にてバックアップデータの遠隔保管を可能とした。

次にオンプレミスにPowerEdgeサーバーを15台、PowerProtect DD6300を2台導入し、同データセンター内にてバックアップデータの遠隔保管を可能とするとともに、仮想サーバー基盤をベースとするシンクライアントシステムを刷新し、サーバー/ストレージ一体型のHCI環境を実現した。「一体型なので運用を効率化でき、拡張性も高い」と山田氏は評価する。

この刷新に伴い、バックアップ環境も見直しを図り、テープバックアップを廃止。オンプレミスのデータはPowerProtect DDにより遠隔レプリケーションする仕組みに変えた。

仮想サーバー基盤には多くのサブシステムが収容されており、移行作業や稼働検証、ドキュメントチェックなどの作業は多忙を極めたという。しかもプロジェクト進行中にパンデミックが発生し、現地対応も難しくなった。「日本ユニシスをはじめとするパートナーにはこちらのスケジュールに合わせ、適宜リモートでの対応をしてもらいました。おかげで大きな進捗の遅れもなく、プロジェクトを完遂することができました」と穂坂氏は話す。

ログオン時間の短縮化で年間1万4000時間のムダを削減

川崎信用金庫
事務部
安達 雅浩氏

プロジェクトは2021年8月にカットオーバーし、新たなシンクライアントシステムの稼働を開始した。

基盤を刷新したことで、低下していたパフォーマンスは大幅に向上した。アクセスが集中する始業前でも、速やかにログオンできる。アプリケーションのレスポンスも、体感ではっきり違いが分かるほど速くなったという。「シンクライアントシステムにおいて、ログオン遅延の影響を受けていたのは1日平均約700人。ログイン時間の短縮を5分とみると、年間で1万4000時間を削減できた計算です」と山田氏は語る。

仮想サーバー基盤はVMware環境のサーバー管理ソフトであるVMware vCenter Serverで統合管理する仕組みだ。異常があれば、すぐにアラートが上がるが、稼働後はハードウエアに起因する障害はほぼゼロで安定稼働している。新たなバックアップシステムも問題なく稼働しており、事業継続性も向上した。「テープバックアップを廃止し、PowerProtect DDを活用したバックアップに変えることで、LTOテープの交換作業も不要になり、障害やトラブルもなくなり、毎日10分、年間40時間かかるLTOテープ交換の手間も削減できました」と、同金庫の安達 雅浩氏はメリットを強調する。

オンプレミス環境をブレードサーバーからHCIに移行したことで、サーバーのラックスペースも削減できた。以前は12ラック使用していたが、今は4ラックで済む。サーバー設置スペースが1/3になり電力消費量も低減されたため、コスト削減に加え、川崎信用金庫が取り組む環境対策への貢献にもつながっているという。

HCIはサーバーやストレージの増設が容易で運用しやすいのが特長だ。サブシステムの追加やデータの増加に応じて、柔軟にシステムを拡張していける。「パフォーマンスの劣化は当分心配せずに済みます」と安達氏は続ける。

業務を支えるシンクライアントシステムは効率性とセキュリティの両立を図るために実現したものだ。今後も刷新したシンクライアントシステムを軸に、ペーパーレス化をはじめとする業務改革を推進し、同時に金融機関に求められる情報セキュリティ要件への対応も進めていく。

全体最適の視点でITシステムの“あるべき姿”を考え、クラウドの活用範囲も広げていく。その際はオンプレミスのシンクライアントシステムとの組み合わせによるハイブリッドクラウドやマルチクラウドが現実解になる。VMware vSANベースのHCIは、そうした構成にも柔軟に対応が可能だ。「デル・テクノロジーズには引き続き、クラウド活用の最適化に向けた提案とサポートに期待しています」(山田氏)。

今後も川崎信用金庫では地域のニーズと期待に応えるコンサルティング機能を高めるとともに、脱炭素社会の実現や地方創生をはじめとする社会課題の解決に取り組み、地域経済の発展に貢献していく考えだ。

日経BP社の許可により、2022年1月21日~ 2022年2月17日掲載 の 日経 xTECH Special を再構成したものです。
https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/NXT/22/delltechnologies0121/

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