IT環境を戦略的に考える時代 オンプレで“クラウドバリュー”を実現するとは?

デジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みが急務になる一方、IT部門の負担がこれまで以上に大きくなっている。IT人材が不足する中の業務増大で、疲弊しているところも少なくないはずだ。このような課題を解決すると共に、DXを成功に導くアプローチとして注目されているのが、デル・テクノロジーズが提供するサービス型のITインフラ「Dell APEX」だ。この利用は、日本の企業や組織にどんなベネフィットや新しい価値をもたらすのか。デル・テクノロジーズでCTOを務める飯塚力哉氏に聞いた。

DXで顕在化した日本のITシステムに山積する課題

デル・テクノロジーズ株式会社
CTO/最高技術責任者
飯塚 力哉氏
IT業界で40年近くの業務経験を持つ。製造関連のアプリケーション開発に従事した後、製造・金融・通信業界向けのSEを務めた後、営業を支援するプリセールスSEも経験し、12年間Dell Technologiesのプリセールスチームをリードしてきました。2022年2月に現在の役職に就任。

――現在、日本の企業や組織でも、デジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みが急速な勢いで進みつつあります。この動きを、どう見ていますか。

飯塚氏コロナ禍でデジタル化が進展し、既にクラウドの活用は当たり前のものになり、コロナ禍でテレワークも一般的になりました。その一方で、より多くのモノをネットワークに接続してデータ収集や制御を可能にするIoTや、集まったビッグデータを扱うためのデータ分析基盤、機械学習や深層学習といったAI技術など、DXを加速する技術も次々と登場し、進化を続けています。しかしこれによって、IT部門や既存システムに新たな課題も顕在化しているように思います。

――具体的にはどのような課題があるのでしょうか。

飯塚氏IT部門に大きな業務負担が生じていることはその1つです。実際、私も数多くのお客様の声を伺ってきましたが、多くの企業や組織は、ただでさえIT人材の確保に苦労しているのに、そうした限られた人員で既存システムを問題なく運用しながら、ビジネスの新たなニーズにも迅速に対応することが求められるようになっているのです。

またIT環境にも、数多くの課題が山積しています。例えば既存のオンプレミスシステムでは、高止まりする運用コストや定期的に発生する機器のリプレースといった課題に直面しています。これらの解決を目指してクラウドシフトを進めているものの、運用や料金体系の不透明さ、レイテンシに対する厳しい要求からパブリッククラウドに適さない業務アプリケーションの存在、機密情報を扱うシステムを本当にパブリッククラウドに載せられるのか、何らかの問題が発生した場合に説明責任が果たせるのかといった懸念などが、新たに生じています。

――こうした課題を解決するためにはどのようなアプローチが求められるのでしょうか。

飯塚氏これは「オンプレミスとパブリッククラウドのどちらを選択するのか」といった、単純な議論では解決しません。企業や組織の業務アプリケーションの中には、オンプレミスに適した特性を持つものもあれば、パブリッククラウドとの親和性が高いものもあるからです。しかも実際に直面している課題は、一見すると共通しているように見えて、実は企業・組織によって千差万別です。このような状況をきちんと理解した上で、解決策を模索していく必要があるのです。

その1つの解決策として当社が提供を開始しているのが「Dell APEX」(以下、APEX)です。報道記事などでは「プライベートクラウドのメリットをオンプレミスシステムにも提供するもの」だと紹介されることが多いのですが、それはこのソリューションの1つの側面に過ぎません。

マルチクラウド環境での広範な選択肢を提供するAPEX

――それではAPEXの本来の価値はどこにあるのでしょうか。

飯塚氏APEXの本質は、将来のマルチクラウド環境(複数のパブリッククラウドとオンプレミスシステムが混在する環境)において、それを構築・運用する企業や組織に対して、より幅広い選択肢を提供することにあります。

もちろん、ストレージやサーバーといったハードウエア製品の「サービス化」が重要な側面であることは事実です。しかし、最終的に我々が目指しているのはオンプレミスで使うITインフラはもちろん、プライベートクラウドやパブリッククラウド、データセンターでのマネージド・サービスなど、広範な領域を新たなモデルへと変革し、オンプレミスや複数のパブリッククラウドを自由に選択できる世界をつくり上げることなのです。

――今後に必要なIT環境の新たなモデルづくりを支援する。その有効な手段としてAPEXがあるということでしょうか。

飯塚氏その通りです。IT環境を1つの山に見たて、ビジネスの成功に至る登頂ルートを考えてみましょう(図1)。図の山麓にあるベースキャンプは「GROUND」と記していますが、これはオンプレミスシステムを表しています。また山頂に向かう途中には複数の「CLOUD(パブリッククラウド)」が並んでいます。我々がAPEXで目指しているのは、これらをシームレスに融合することによって、シンプルなルートで山頂を目指せるようにすることなのです。この戦略を米国本社では「バイ・ディレクショナル・グラウンド・アンド・クラウド・ストラテジー(オンプレミスとクラウドの双方向戦略)」と呼んでいます。

――その実現に向けて、改めてAPEXではそのようなサービスを提供しているのでしょうか。その全体像を改めて教えてください。

飯塚氏それでは図を使って、順に説明していきましょう。まず全体を統括する上で重要な役割を果たすのが「APEXコンソール」です。これはAPEXで提供する各種サービスやITインフラをマーケットプレイス型で提供する単一の管理コンソール。各種サービスやITインフラの調達、コスト管理、予測分析などを司ります。これらの料金体系はサブスクリプション型となっており、その透明性も高い。しかもオンプレミスで使うITインフラだけではなく、マルチクラウド環境もサポートしています。もちろん日本向けの場合には日本語表記となり、料金も円で表示されます。サービスの発注や月額請求の事前承認、請求額の確認までコンソール上で対応が可能になっています。これは利用企業にとって、従来のオンプレミスともパブリッククラウドとも異なる、新たな利用体験を提供するものです(図2)。

飯塚氏その横には、ITインフラとして利用できる各種ターンキーソリューションである「APEXクラウドサービス」が並んでいます。これらのサービスを組み合わせて活用することで、ストレージやサーバー、バックアップ環境、コロケーション環境やクラウド環境のサービス化が実現できるわけです。

さらに右に並ぶのが「APEXカスタムソリューション」。これはお客様の要望に合わせて、必要なソリューションを柔軟に構築・運用するもの。そして一番右には「APEXパートナーシップ」があり、多様なパートナーと協業しながら目指す世界を構築していくことを、明示しています。

APEX提供に向けデル・テクノロジーズ自身も大きく変革

――APEXは企業・組織の将来に向けた変革を支援するものだということすが、なぜそれをデル・テクノロジーズが提供できるのしょうか。

飯塚氏デル・テクノロジーズ自身も、あらゆる部門での変革を推進し続けているからです。APEXは既存製品の延長線上で新たなソリューションを提供するものではなく、お客様とデル・テクノロジーズが共に変革していくための、大きな旗印でもあるのです(図3)。

飯塚氏例えばHR(人事部門)ではサービス化に向けた、新たなスキルセットを持つ人材の採用を積極的に推進。エンジニアリング部門でも、アジャイル開発による迅速なリリースに向けた取り組みを進めています。またマーケティング部門では新たなデジタルチャネルの組織的な活用に取り組んでおり、セールス部門も新たな売り方へのアプローチを模索しています。BTO(Build TO Order)で成長してきたデル・テクノロジーズは、サプライチェーンに大きな強みがあり、これに関してもよりリードタイムを短くするための再構築を実施しており、既に新規導入・拡張時において50%以上のリードタイム短縮を実現しています。

――今後日本市場に対して、どのようなアプローチを行う予定なのでしょうか

飯塚氏日本のお客様には海外とは異なるいくつかの特性があり、それに寄り添う形でAPEXを提供していく計画です。

前述のターンキーソリューションに先行する形で、カスタムソリューションを提供しているのはその1つです。日本の企業や組織では、自分たちのITインフラを内部の人員だけで構築する、といったケースはあまり多くありません。これまでほとんどのITシステムが、ITベンダーやSIerといったパートナーのサポートのもとで構築されてきました。そのため個別のターンキーソリューションを最初に提供するよりも、デル・テクノロジーズのコンサルタントやエンジニア、パートナー企業などが参画する形で、お客様ごとの要望にきめ細かく対応できるカスタムソリューションの提供から始めるべきだと判断しました。「お客様の強いご要望もあり、カスタムソリューションの提供は既に開始しています。もちろん近い将来には、ターンキーソリューションも日本市場でリリースしていく予定です。

――日本市場だと導入だけでなく、その後の運用を気にしている企業も少なくないと思います。それに対してはどのようなサポートを展開されるのでしょうか。

飯塚氏もちろん運用面でも、日本向けのきめ細かいサポートを用意しています。

日本のお客様では「運用定例」というミーティングを定期的に開催するケースが一般的ですが、日本向けのAPEX提供ではこの慣習にも対応し、ITインフラに関するお客様の意見やフィードバックを定期的にお聞きしています。またデル・テクノロジーズ側でお客様の利用状況をきちんと管理し、より良い利用形態の提案などもプロアクティブに実施しています。IT人材不足に悩む企業・組織にも、安心して採用できるような配慮からです。

こうした様々なサービスを通じて、最終的にはアプリケーションやデータが、オンプレミスとパブリッククラウドとの間を自由に行き来できる世界を、お客様、デル・テクノロジーズ、パートナーと一体となって創り上げていきたいと思います。

日経BP社の許可により、2022年4月25日~ 2022年7月29日掲載 の 日経 xTECH Special を再構成したものです。
https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/NXT/22/delltechnologies0420/

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