老朽化したデータセンターからの脱却が大きな課題に
DXへの取り組みが本格化するに伴い、「クラウドファースト」の流れが進みつつある。システムインフラを「サービス化」することは、変化対応の俊敏性を高め、多様な試行錯誤を可能にする。またそれだけではなく、IT資産の保有から解放されることでバランスシートが軽くなるという効果も期待できる。その結果、新たな取り組みへの意思決定が軽快になり、DXをさらに加速できるようになる。
しかしすべてのシステムがクラウド化できるわけではない、業務を支えるデータ基盤などは、今後もオンプレミスで運用すべきシステムの1つだ。特定のクラウドサービスに重要データを載せてしまうと、クラウドベンダーへのロックインが発生し、長期的な自由度が失われる危険性があるからだ。またセキュリティ要件やコンプライアンスの観点から、クラウドに載せられないデータも存在する。
ここで大きな問題になるのが、既存のデータセンターを今後も自社で運用すべきか否かである。多くの企業のデータセンターは既に老朽化が進んでおり、設備の更新が必要なタイミングを迎えている。これを機に「自前のデータセンターから脱却したい」と考えている企業は少なくないはずだ。
その一方で、オンプレミスシステムの進化も求められている。DXを加速していくには、オンプレミスシステムもIoTやビッグデータ、機械学習やAIなど、最先端の技術を取り込んでいかなければならない。エッジコンピューティングやマルチクラウドとのシームレスな連携も必要だ。老朽化したデータセンターからの脱却だけではなく、次世代アーキテクチャに立脚したオンプレミス基盤を確立する必要があるわけだ(図1)。
こうしたニーズを満たすために、ITインフラベンダーによる新たな取り組みも始まっている。その最たる事例ともいえるのが、デル・テクノロジーズとエクイニクスが2021年5月に発表した提携だ。それは「Dell Technologies APEX」(以下、APEX)で提供される各種ハードウエアを、エクイニクスのコロケーション施設に設置し、デル・テクノロジーズが管理する「Dell-Managed Colocation」上で活用できるという内容だ。
APEXとはデル・テクノロジーズによる新しいサービスモデル。ストレージをはじめとする広範なITインフラ製品やマネージドサービスをアズ ア サービス型で提供し、単一コンソールである「APEXコンソール」で統合管理できるというもの。これによってオンプレミスでもクラウドのような調達と運用が可能になり、調達や拡張の迅速化、初期コストの削減、運用のシンプル化、IT資産保有の負担軽減など、様々なメリットを享受できるのである。
データ主権を確保しながら多様なクラウドの活用が可能
その具体的なイメージを示したのが図2である。
「お客様はAPEXコンソールから、APEXのサービスとコロケーションオプションを同時に発注していただくと、サービス提供に必要なITインフラ製品がデル・テクノロジーズが管理するエクイニクスのコロケーションエリアに速やかに設置されます」と説明するのは、デル・テクノロジーズの平原 一雄氏。「例えば、これだけの性能のストレージを100TB調達し、コロケーションで利用したい」といった内容で、発注が行えるのだという。
コロケーションエリアに設置されたハードウエアリソースは顧客ごとに専有でき、後から容量などを追加することも可能だ。もちろん料金は、使用した分だけ支払えばいい。「エクイニクスのコロケーションも含め、契約と請求はデル・テクノロジーズに一本化されます。個別に契約して支払いを行うといった面倒はありません」。
ここで注目したいのが、デル・テクノロジーズが管理するコロケーションエリアに置かれたITインフラ製品の管理も、デル・テクノロジーズが一元的に行っている点である。つまり利用企業はITインフラの運用管理からも解放されるわけだ。もちろん既存のオンプレミスシステムとの連携も容易。既存データセンターからの段階的な移行も行いやすい。オンプレミス側でもAPEXを採用すれば、オンプレミスとコロケーションを統合したDR(災害復旧)運用なども実現できる。
「エクイニクスのコロケーションサイトを使っているので、各種パブリッククラウドとの連携でも有利です」と平原氏は語る。同社のコロケーションサイトは「クラウド隣接型」と呼ばれており、主要なハイパースケーラーとの低遅延連携を実現しているからだ。「そのため、データ管理はコロケーション、それらのデータ処理のためのコンピュートはパブリッククラウド、といった使い方が可能です。つまりデータを手元に置きながら、コンピュートは複数のパブリッククラウドから最適なものを選択できるのです。これならデータ主権を維持し続けることが可能になり、クラウドベンダーロックインも回避できます」。
このような特徴を生かすことで、システムの自由度をこれまで以上に高めることが可能になる。社外に持ち出せない重要データはオンプレミス、DXで活用したいデータはコロケーションサイトに置き、コロケーションサイトにあるデータ基盤と複数のパブリッククラウドを連携させ、様々な処理を最適な形で実行できるわけだ。これまでコロケーションの活用といえば、オンプレミスをプライマリーサイトにし、そのバックアップサイトとして利用するケースが一般的だった。しかしDell-Managed Colocationを導入する企業の中には、プライマリーサイトとしてコロケーションを利用することを検討するケースも増えているという。
クラウドストレージと同等コストで圧倒的に低いレイテンシ
それではエクイニクスのコロケーションサイトは、パブリッククラウドとの連携でどれだけ有利なのだろうか。「実はAPEXの発表以前から、エクイニクスと共同でベンチマークを行っていました」と平原氏。その内容を次のように説明する。
まずシドニーにあるエクイニクスのコロケーションサイトと、同じくシドニーにあるパブリッククラウドのリージョン(サイト)を、クラウドベンダーが提供するダイレクト接続サービスで接続。コロケーション側ではデル・テクノロジーズのストレージを稼働させ、それをクラウド上の仮想マシン(Windows)からアクセスする。これに加え、クラウドベンダーが提供するストレージサービスに同じクラウド上の仮想マシンからアクセスするパターンも用意し、両者を比較している。
「I/Oの並列度を変えながらベンチマークテストを行ったのですが、並列度4の段階でコロケーションの方が、レイテンシが低いという結果になりました。また並列度を16にしたケースでは、その差がさらに拡大しています。APEXで提供しているストレージ製品は当時のストレージよりも高性能なので、Dell-Managed Colocationではさらに大きな差になるでしょう」
同じクラウド内にあるストレージと比較してもレイテンシが低いというのは、驚くべき結果だ。もちろんこれは、デル・テクノロジーズが提供するストレージ製品の能力が、クラウドストレージよりも高いことを意味している。
ここで気になるのがコストだ。コロケーションで高性能な製品を使うことで、クラウドストレージよりもコスト増になった場合、このベンチマークの意味は半減する。
「実際に、ベンチマーク環境と同等の条件で3年間のトータルコストを比較しているのですが、クラウドストレージを使用した場合に比べて当社の製品を使った場合は、半分程度のコストになることが分かっています。これにはコロケーションのコストは含まれていませんが、コロケーション料金を含んだ場合でもクラウドストレージのコストと同等、もしくは少し下回る金額になるはずです」
コスト増にならず、より低いレイテンシになるのであれば、これは「願ったり叶ったり」だといえるだろう。コロケーションでデータ主権を確立し、それを低遅延でクラウドから利用できるのであれば、クラウド側にデータを移す必要はない。「パブリッククラウドでデータ処理を行うためにそのクラウドのストレージサービスを使う」というのは、近い将来には「時代遅れの考え方」になる可能性すらある。
なおDell-Managed Colocationは、米国などでサービスが開始されており、日本でも順次提供を開始する予定だ。今後のオンプレミス環境において有力な選択肢となりそうだ。
日経BP社の許可により、2022年1月20日~ 2022年2月16日掲載 の 日経 xTECH Special を再構成したものです。
https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/NXT/22/delltechnologies0120/