想定外の経験で始まった「オンプレミス回帰」の動き
コロナ禍で日本でもパブリッククラウドの活用が急速に進んだ。これまでその活用に二の足を踏んでいた企業や組織も、テレワークに対応するためのクラウドシフトに、着手せざるを得なかったからだ。
これは半ば「強制された形」でのクラウドシフトともいえるが、これをきっかけにパブリッククラウドの利点を、改めて理解できた企業・組織も多かったはずだ。パブリッククラウドは初期導入コストが安く、計画から導入・活用までの期間が短い。またリソースの増減が容易なため柔軟性が高く、ユーザーにとってはもちろんのこと管理者にとっても利便性が高い。これらの利点を再評価した結果、クラウドシフトの対象システムを一気に拡大した企業・組織も少なくない。
しかし2022年からは、この流れに変化が生じている。「過度なクラウドシフト」にいったんブレーキをかけ、オンプレミスに適したシステムはオンプレミスに残しておこうという考え方が広がっているのだ。つまり「オンプレミス回帰」が始まっているのである。
その背景について「2022年に発生した想定外の経験が、この考え方を生み出す契機になっています」と語るのは、デル・テクノロジーズの諸原 裕二氏だ。
2022年、ロシアによるウクライナ侵攻が始まり、地政学リスクが顕在化。これに伴いエネルギー調達が不安定になり、電力価格などが高騰する結果となった。また不安定な世界情勢は米ドル高を招き、円やユーロが相対的に安くなった結果、輸入品や海外サービスの価格も高騰している。さらに、コロナ禍から始まった半導体不足も一段落したものの、将来の経営環境の見通しは極めて不安定な状況だ。
「こうした問題が一気に噴出した結果、パブリッククラウドといえどもリソース増強が遅延する懸念が生じ、通信回線の破壊などによってサービス停止や障害が発生するリスクも高まりました。また日本企業の多くはパブリッククラウドとして米国のハイパースケーラーを使っていますが、米ドル建てで決済を行う必要があるため、為替相場の変動によって円建てで見た場合のコストが増加する傾向があります。このような状況に直面した結果、安定性やデータセキュリティーの確保、クラウドベンダーによるロックイン回避などについて、改めて評価し直す動きが広がったのだと考えられます」(諸原氏)
ベアメタルサーバーの調達を変える「Dell APEX Compute」
このような「オンプレミス回帰」の動きを視野に入れ、パブリッククラウドとオンプレミスの「双方向での融合」を実現するため、デル・テクノロジーズが推進してきたのがDell APEXの提供である。
まずオンプレミスに導入するハードウエアなどのITリソースに対し、パブリッククラウドライクな運用方法と、「所有から利用へのシフト」を可能にするコンサンプションモデルを提供。その一方で、オンプレミスで培ってきた高度なテクノロジーを複数のプライベートクラウドでも利用可能にすることで、データの可搬性や相互運用性を実現、クラウドベンダーロックインなどを回避できるようにしている。
なおデル・テクノロジーズでは、前者のアプローチを「クラウドtoグラウンド」、後者のアプローチを「グラウンドtoクラウド」と呼んでいる。これらのアプローチを並行して進めていくことで、双方向での融合を実現しようとしているわけだ。
当初はストレージ製品を中心に進められてきた「APEX化」だが、2023年5月に開催された「Dell Technologies World 2023」ではこれを新たな領域に拡大することが発表された。それが「Dell APEX Compute」である(図1)。
「これはベアメタルコンピュートのサブスクリプション契約を可能にするもの。Dell APEXの『クラウドtoグラウンド』をストレージからサーバーへと拡大する取り組みです。これによって、サーバーを所有せずに必要な処理能力を利用できるようになり、初期投資やその償却といったハードルを取り除けるようになります」と説明するのはデル・テクノロジーズの上原 宏氏だ。
「Dell APEX Computeを利用されるお客様は、Dell APEX Consoleで必要なノードタイプ(ノードの用途)やオプションとなるGPUタイプなどを選択、これに対応したDell PowerEdgeをデル・テクノロジーズが選定し、お客様の環境に納品・設置します。お届けするのはベアメタルサーバーなので、その上でどのようなOSや仮想環境、アプリケーションを動かすのかは、お客様が自由に決められます」(上原氏)(図2)
Dell APEX Computeがもたらす数々のメリット
ノードタイプとGPUタイプ、そのほか簡単な選択だけで済むというのは、パブリッククラウド並みにシンプルな調達モデルだといえるだろう。またサブスクリプションモデルで利用できるのであれば、初期投資の問題も解決する。ここで注目したいのが、料金設定が円建てになっている点だ。そのため為替変動が生じても、最初に決められた料金が変動することはない。将来コストを見通すことが容易なので、安心して使うことができるだろう。
また、オンプレミスのベアメタルサーバーであるため、パブリッククラウドのようにハードウエアリソースがほかのユーザーと共用されることがなく、専有した状態での安定利用が可能だ。またデータを外部に持ち出す必要もないため、データの安全性も担保しやすい。仮想環境への適用が難しいデータベースサーバーや、独自のハイパーバイザーとしての用途でも利用できるだろう。
このような利点に加えてハードウエアの発注や管理を担当するIT管理者にとっても、様々なメリットがあるという。
「ハードウエアの調達では、使用する仮想環境やアプリケーションの要件に合わせて詳細なハードウエアの設計を行い、それにもとづいて調達製品を決め、ベンダーと納期や価格などの交渉を行った上で、契約・発注する必要があります。この作業は最初の調達時だけではなく、ハードウエアを追加調達するたびに必要になり、DXなどでIT環境が変化し続ける最近の状況において、管理者の大きな負担になっています。また従来のように『購入』という調達方法では、そのハードウエアを保有することになり、期間限定での利用ではムダなコストがかかる結果になります」(上原氏)
Dell APEX Computeを活用すれば、これらの問題をすべて解決できる。デル・テクノロジーズ側が最適なモデルを決めてくれるため、詳細なハードウエア設計や製品選定は必要なくなり、発注作業自体がシンプルになるため、繰り返し発注の際も作業負担は大幅に軽減可能だ。
製品発注のプロセスが簡素化される結果、ハードウエア調達依頼を受けてから納品までの期間も短縮できる。またサブスクリプションモデルなのでハードウエアを保有する必要がなく、期間限定での利用にも対応しやすい(図3)。
ベースは市場から高い評価を受けるDell PowerEdgeを活用
このように様々なメリットがあるDell APEX Computeだが、実際に提供されるサーバー製品がDell PowerEdgeであるという点にも注目しておきたい。同製品はユーザーから高い評価を受けており、2021年、2022年と2年連続でサーバーシェアトップになっているからだ。
実はデル・テクノロジーズの日本市場でのシェアは、数年前までトップではなかった。日本市場で確固たるポジションを確立していた強力な競合が存在していたのに加え、管理ツールや管理手法が各社で異なっているため、いったん採用したサーバー製品をほかのベンダー製品に変更することが困難だったからだ。近年では高い価格性能比が浸透し、徐々にシェアの差を縮めてきた中でさらに決定打となったのは、コロナ禍で発生した半導体不足だったという。
「このころから部品調達が難しくなった結果、多くのハードウエアベンダーは納期が著しく延びる傾向にあり、納期の予測すらできない状況になることも少なくありませんでした。これに対してデル・テクノロジーズは、それまでに培ってきた強靭なサプライチェーンによって、比較的安定的に納品できる状態でした。そこで多くのお客様が当社の製品をご購入くださることになったのですが、これをきっかけにDell PowerEdgeの良さを実感してくださり、その後の継続導入につながったケースが多かったのです」(上原氏)
実際に評価されているポイントとしては、最新プロセッサーやGPUの能力を最大限に引き出すための熱対策、統合リモート管理を可能にするiDRAC、RAIDコントローラーの高性能化などで、デル・テクノロジーズ独自の進化を遂げていることなどが挙げられるという。また高度な熱対策はエネルギー効率を改善するため、温室効果ガス排出量削減につながり、サステナビリティにも貢献できる点も評価の高い項目だ。
「既に多くの日本企業は、サステナビリティへの取り組みが企業責任として必須になることを強く意識し、RFP(提案依頼書)の中にサステナビリティ関連の項目を盛り込むことが増えています。デル・テクノロジーズの製品は、その大半がENERGY STARに準拠、Dell PowerEdgeは環境評価システムEPEATのSilver評価も取得しています。さらに製品梱包材などをリサイクル可能な素材に変更する、不要な付属品を添付しないオプションを追加する、といった取り組みも積極的に行っています」と上原氏は話す。
さらにDell PowerEdgeの製品ポートフォリオのカバー領域が、他社と比べて圧倒的に広い点も重要な優位性といえるだろう。汎用ラックサーバー群に加え、「AI/機械学習処理向けのGPUサーバー」「エッジ環境向けエンタープライズサーバー」といった機能特化型モデルも用意されており、将来的には、Dell APEX Computeで様々な用途に応じたサーバーを選択できるようになる可能性があるからだ。
今後も段階的にサービス内容とポートフォリオを拡充
Dell APEX Computeがリリースされたのは、日本時間の2023年5月12日。これまでのDell APEXは米国で先行提供され、その後に日本でも提供されるという段階的なリリースだったが、今回はグローバルで同時に提供が開始された。その第一弾としては、前述のようにDell PowerEdgeをベースにした提供が行われており、ノード単位での課金となっている。
今後は継続的に内容を拡充していく計画だ。その具体的な取り組み内容としては、ノード単位での課金に加えて使用量に応じた「メーター課金」も提供、顧客によるハードウエア管理に加えてデル・テクノロジーズによる管理も追加、実際に納品される製品ポートフォリオの拡大などを挙げられるという。
「Dell APEX Computeの提供開始によって、お客様のハイブリッドクラウド化を、さらに強力にお手伝いできると考えています。オンプレミスシステムはよりクラウドライクになり、パブリッククラウドとの相互運用性も強化されることで、IT管理者の負担を大幅に軽減できるとともに、より柔軟なITインフラも実現しやすくなるはずです。ITインフラの柔軟性が高くなれば、コロナ禍による半導体不足や、地政学リスクによるエネルギー価格の高騰といった、企業単体ではコントロールできない不測の事態にも迅速に対応できるようになります。また攻めのIT活用を行うことも容易になり、DXをさらに加速することも可能になるでしょう。デル・テクノロジーズはこれからもDell APEXを進化させながら、お客様のITインフラ変革をご支援していきたいと考えています」と諸原氏は最後に語った。
日経BP社の許可により、2023年7月31日~ 2023年9月3日掲載 の 日経 xTECH Special を再構成したものです。
https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/NXT/23/delltechnologies0731_02/