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    日経グループのデジタル変革を支える仕組み

    事例/オンプレとクラウドの“いいとこ取り”を実現するデジタル戦略

    • DXの推進でメディアサービスの価値向上を目指す

      デジタル時代のビジネスをリードするためには、顧客視点で新しい価値を提供することが不可欠だ。それはメディア産業であっても例外ではない。価値ある情報をいかにタイムリーかつ分かりやすく伝えるか――。こうした日経グループの事業をITの側面から支援するのが日経統合システムだ。

      1987年創業の日経統合システムは、日経グループの事業・サービスを支えるインフラを提供する企業。日本経済新聞社の新聞製作システムや、『日経電子版』をはじめとする様々なサービスを支えるシステムの運用・管理を担う。近年はグループの活動を支援するだけでなく、その中で培った技術・ノウハウを生かし、RPAやWeb会議システムなどの働き方改革を後押しするソリューションも提供。さらにシステム開発・運用、設備管理までワンストップで提供する外販事業にも力を入れている。

      メディアサービスは情報の価値とともに、スピードが非常に重要になる。価値ある情報をタイムリーに届けなければ、その価値も半減してしまうからだ。同社がそのスピードに危機感を抱き出したのが2年ほど前だったという。

      「ライバル企業のサービスのアップデート頻度やスピードが次第に上がっているのを実感したのです。これまでのようなウォーターフォール型の開発スタイルのままでは、このスピードについていけない。このままでは今後の競争力に影響してしまうと感じました」と同社の鴨田 吉央氏は振り返る。

       

      図1●デジタル時代に求められるサービスの開発・提供体制

      サービスのアップデート頻度や提供スピードを上げるためには、アプリケーションの開発・更新サイクルを高速化する必要がある。これを支える基盤の整備に加え、適切なツールの活用、開発プロセスや文化の変革も不可欠だ

       

      鴨田氏が部長を務めるDX共創グループは、SaaSツールの活用による顧客のデジタルトランスフォーメーション(DX)やワークスタイル変革を支援する戦略部署。顧客の変革を支援するためにも、まず自分たちが変わらなければならないとの思いも強かったという。

      ただし、既存の開発体制を変え、デジタル変革を推進することは容易ではない。ウォーターフォール型からアジャイル型へと移行するには、アプリケーション開発基盤を変革し、プロセスやカルチャーも変える必要があるからだ。そこで同社では、日経グループのデジタル変革の土台となる、クラウドネイティブ・アプリケーション開発基盤の構築を決断した(図1)。

      デジタル変革を進める日経統合システムでは、具体的にどのような仕組みを構築したのか。次ページではその中身と効果について紹介したい。

    • 日経グループのデジタル変革の土台となる新しい開発基盤とは

      株式会社日経統合システム
      ソリューション事業本部
      DX共創グループ 部長
      鴨田 吉央氏

      日経グループのデジタル変革に向け、同社が注目したのが、クラウドネイティブ基盤である。「オンプレミスにパブリッククラウドレベルの柔軟性を持つアプリケーション開発基盤を実現し、オンプレミスでもクラウドでも、システム形態を問わずアプリケーションを自在に利用できるコンテナ開発環境の実現を目指しました」と鴨田氏はその狙いを語る。

      ただし新しいアプリケーション開発基盤の構築は言葉で表現するほど容易なことではない。同社では、日経グループのインフラ運用という特性上、秘匿性の高い情報も数多く扱う。クラウドに出せないシステムやデータがあるため、オンプレミスで稼働するシステムも存在することが基盤検討の前提となる。検討に着手したのは2年前だったが、その当時にKubernetesベースの開発環境を自前で構築している例はほとんどなかった。パブリッククラウド各社のKubernetes関連サービスでさえ、ようやく始まったばかり。一体、どのようにして開発基盤を作っていけばいいのか、その手段がなかなか見つからなかったという。

      こうした課題を解決すべく、同社が採用を決めたのが、デル・テクノロジーズが提供する「VMware Tanzu Architecture for Dell EMC VxRail」(導入時名称「Dell EMC Pivotal Ready Architecture」)である。これはHCI(ハイパーコンバージドインフラストラクチャ)製品「Dell EMC VxRail」(以下、VxRail)をベースに、オブジェクト・ストレージ・ソフトウエア「Elastic Cloud Storage」(以下、ECS)とモダンアプリケーションソリューション「VMware Tanzu」、さらにはネットワーク仮想化製品「VMware NSX-T Data Center」を組み合わせたもの。

      あらかじめハード/ソフトを含め、事前検証を済ませた状態で一体化して提供される。「選定の際は、他ベンダーの提案と比較・検討しましたが、実績がなく、まだまだβ版レベルの仕上がりと品質で不安の残るものでした。その点、デル・テクノロジーズの製品群は実績も豊富だった上、同一グループの製品群で構成されているため、相互接続性が高く、動作保証もしてくれます。総合的な安心感が決め手になりました」と鴨田氏は選定の理由を述べる。

    • 1週間かかっていた開発環境の払い出しがわずか30分に

      同社ではこの基盤によるマルチサイト構成で本番環境への適用を目指している。その布石として、今回はアプリケーションの開発検証環境を実現した(図2)。

       

      図2●今回実現した検証環境構成と将来の本番環境構成

      検証環境にはVxRailを4台導入。今後の運用でリソースが不足しても、VxRailのノード追加で対応でき、拡張性も高い。将来的には本番環境もマルチサイト構成のクラウドネイティブ基盤に移行していく

       

      「導入後に環境設定を行い、稼働開始まで約3週間と言われたのですが、当初は半信半疑でした。もし、個別のコンポーネントを組み合わせて開発環境を構築していたならば、少なくとも3カ月以上はかかると考えていました。実際、2019年6月の上旬に導入を開始し、同下旬には稼働を開始できました。想像をはるかに超えるスピード感には本当に驚かされました」と鴨田氏は話す。

      コンテナ型仮想化は新しい技術であり、同社にとって今回が初めての利用となる。そこで同社では、IaaS部分の整備に空いた時間を技術習得に充てることで、スキルアップを図った。これと並行して社内の開発体制をウォーターフォール型からアジャイル型に変革し、開発メンバーの意識改革も促しているという。

      既に成果も表れつつある。開発生産性はその1つだ。従来の基盤や方法論では比較にならないほど向上した。

    • 株式会社日経統合システム
      ソリューション事業本部
      DX共創グループ
      プロダクトマネージャー
      内山 永悟氏

      例えば、開発用の仮想マシンを用意する場合、以前はインフラ担当者に要件を伝え、調整などを行う必要があり、払い出しまで1週間程度はかかっていた。それが今は開発者自らが払い出しを行える上、その作業はわずか30分で完了するという。「工期を短縮できるのはもちろん、もっと上流のサービス企画などに多くの時間と工数を費やし、品質向上に専念できます」と同社の内山 永悟氏はメリットを語る。

      新しい基盤によるアジャイル開発プロジェクトも多く立ち上がり、成果物もがあがっている。音声感情解析システム「VENAS(ヴィーナス)」はその代表例だ。これは人の話し方や声の強弱などから、表情だけでは読み取れない感情を解析するシステムである。

      現在、アプリケーションの開発者はインフラの存在をほとんど意識する必要がなくなった。個別のコンポーネントを組み合わせて開発環境を構築した場合は、今後のバージョンアップ作業などについても自分たちで対処しなくてはならないが、今回の新基盤では、VxRailのファームウエアも含めたバージョンアップやメンテナンスパッチの適用もデル・テクノロジーズがハードウエア保守サービスの一環として行うからだ。「インフラの知識習得に費やしていた時間を新しい技術や開発手法の習得に充てれば、人材のトレーニングも効率化できます」と内山氏は期待を寄せる。

    • 株式会社日経統合システム
      ソリューション事業本部
      DX共創グループ
      田中 保行氏

      システムの信頼性とサポート品質も高く評価している。「一度ディスクの遅延が発生したことがあるのですが、リモート保守により、自動で検知されて、早期に対応してくれたため、業務への影響はありませんでした」と同社の田中 保行氏は話す。専任エンジニアによる高品質な保守サポートサービス「プロサポートプラス」を契約しているため、システムの監視や障害対応も劇的に効率化された。

    • 自社の知見を反映したDX支援サービスを提供

      同社は、今回実現した基盤を、アプリケーション開発・検証の中核基盤に、サービスの提供スピードを高めることで競争力を高めていく考えだ。

      株式会社日経統合システム
      ソリューション事業本部
      DX共創グループ
      伊藤 清将氏

      パブリッククラウドも活用し、オンプレミス環境とのシームレスな連携を図る。「クラウドネイティブな基盤なので、オンプレミスの既存資産をクラウドに移行したり、その逆も容易に行えたりするようになる。相互運用性が大幅に向上します」と同社の伊藤 清将氏は話す。

      新基盤を導入した理由の1つも、実はここにある。Kubernetes ベースのコンテナ開発基盤というとクラウドを想定しがちだが、クラウドに適さないシステム特性、クラウドには出せないデータがあるという理由からオンプレミスとパブリッククラウドのハイブリッド/マルチクラウド環境を志向する企業は少なくない。そういう顧客に対し、自社の経験を踏まえたデジタル変革の支援が行えるからだ。

      既にサービスの提供も始まっている。その1つが「VMware Tanzu Platform インテグレーションサービス」だ。「クラウドネイティブなVMware Tanzu プラットフォームの構築・運用監視を一貫したサービスとして提供するほか、最適な活用提案も行います。DevOps推進のための人材育成や体制整備などもサポートします」と内山氏は説明する。

      VxRailベースのVMware Tanzu プラットフォームは開発者、運用者双方にメリットが大きい。コロナ禍や災害対策のソリューションとしても活用でき、今後のアプリケーション開発基盤の有力な選択肢となる。日経統合システムはこの基盤をベースに、日経グループおよび多様な顧客のデジタル変革を支援し、情報戦略企業としてさらなる成長を目指す構えだ。

    • 日経BP社の許可により、2020年9月16日~ 2021年2月15日掲載 の 日経 xTECH Active Special を再構成したものです。