• 装飾

    業界屈指のジャパニメーション企業が実践する

    場所を選ばない制作環境を構築する「秘訣」とは

    日本ならではのセルアニメを3DCGで表現することで、業界に確固たる地位を築き上げたアニメーション制作会社サンジゲン。同社は高精細・大容量化の一途をたどる3DCGアニメの制作を、場所を選ばず実現するため、ワークステーション「Dell Precision 3930 Rack」とシンクライアント、スケールアウトNAS「Dell EMC Isilon」を導入。分散するスタジオ間を連携し、事業成長に応じたITインフラの柔軟性と拡張性を確保している。

    • 成長にあわせたITインフラの拡張が大きな課題に

      東京都杉並区に本社を置くサンジゲンは、2006年3月に設立された3DCGアニメーション制作会社である。セルルックと呼ばれるセル画調のアニメに特化したクリエイティブ集団として、現在約250名のスタッフを擁し、東京(荻窪/立川)・京都・名古屋・福岡など全国5カ所にスタジオを展開。2020年度だけでも『BanG Dream! 3rd Season』『新サクラ大戦』『アルゴナビス from BanG Dream!』など数多くの人気作品の制作に参画し、日本アニメ業界のリーディングカンパニーとして躍進を続けている。

      同社では急速な事業拡大に伴い、3DCGアニメの制作を担うインフラ整備において、いくつかの課題が顕在化していた。

      「全国にあるサンジゲンの各スタジオは本社とネットワークで結ばれており、どのスタジオにいても同一のプロジェクトに参加できるようになっています。しかし今後、各スタジオのクリエイティブスタッフが本社と緊密に連絡を取りつつ、映像配信によって編集作業や完成映像のチェックを行っていくためにはクリアすべき課題がありました」とサンジゲンの金田 剛久氏は語る。

    • その最たるものが柔軟性に乏しいシステム環境だ。

      プロセッサーの高密度化によって、サーバーやネットワーク機器の消費電力が増える中、スタッフが使う膨大な数のPCやワークステーションを稼働させるためには、これらの機器を冷却するための空調設備も含め、ハイレベルな電源設備が必要となる。特にテナントビルでオフィスを借りている場合は、スペース面積で利用可能な電力量がほぼ決まるため、それを超える電力が必要であれば、建物の管理業者と交渉して割当量を増やしてもらうか、自社で設備容量を増強するしかない。いずれにせよ、相当なコストがかかってしまう。

      「テナントとして入った荻窪の本社オフィスでは、サーバールームを建てる際にビルの電力量が全く足りませんでした。そこで自社負担で数千万円をかけて変電設備を導入することになりました。しかし、フロアの中でレイアウト変更するにも、その度に電源やLANの配線工事が発生するため、今後さらにスタジオを増やす際には、なるべくコストをかけず、どこでも簡単にシステムが使える環境にしたいと考えていたのです」(金田氏)

    • 次に、作品データを保存するためのストレージ容量もひっ迫していた。3DCGの表現力を高めるため、1作品当たりのデータ容量は年々増加しており、直近の作品では旧作と比較して約2倍の40TB程度にまで増えている。既存の3DCGアニメ制作用ストレージは、Windowsベースのファイルサーバーで構成されていたが、拡張に手間がかかり、シングルコントローラーである点も性能面ではボトルネックになっていたという。

      さらに、全国に散らばるスタジオでのオンサイト保守も難しい状況にあった。

      「6人で構成されるシステム・開発部の中で、システム管理者として全国のシステムを運用管理するスタッフは3人しかいません。ワークステーションのセットアップやトラブル対応が1人に集中するため、福岡のスタジオで問題が発生したという場合でも、現地に赴いてメンテナンスすることなどが、時間的にも物理的にも限界に近づいていたのです」と同社の中村 公栄氏は語る。

    • 距離を感じさせない新スタジオの構築に成功

      そこで同社は、遠隔地のスタジオでも柔軟にシステムを活用でき、運用管理も一元化できる「リモートワークステーションの導入」と「ストレージ環境の見直し」に着手した。

      「当初はサーバールームに集約したリソースを切り出して使う一般的なVDIも検証してみました。しかし通信速度が速くても映像と音声のタイミングが合わない、ロスレスの圧縮もできず、映像のフレームレートが不安定になったりするなど、当社がメインに使っている3DCG系のアプリケーションにはとても適用できない。そこで、ワークステーションとシンクライアントを1対1で組み合わせた環境が最適ではないかと考え、省スペース性に優れた1Uラック型のDell Precision 3930 Rackに行き着いたのです」と金田氏は語る。ワークステーション本体は、限られたスペースしかない荻窪のサーバールームに置くことを想定していたため、1Uサイズは絶対条件だったという。

      性能面の評価も期待通りだった。3DCGをモデリングするアプリケーションと、コンポジット用のアプリケーションの双方をシンクライアント環境で検証してみたところ、レスポンスも含めてユーザーにストレスを感じさせないパフォーマンスが得られたという。「こうした環境を実現するため、本体にグラフィックカードと映像転送用のリモートカードの2枚が挿せる1Uサイズのシステムは、Dell Precision 3930 Rack型ワークステーション以外には存在しませんでした」(中村氏)。

      ※コンポジット:2D、3D、実写映像などの複数の素材を1つに合成し、効果を加える作業のこと

    • 加えて、この検証を開始したタイミングで、東京・立川に1OGbpsの専用線を敷設した新スタジオが開設される計画が進んでいたことも導入を後押ししたという。

      「これまで遠隔地のスタジオには簡易的なストレージサーバーを置いて、本社のサーバーから随時必要なデータを転送するスタイルで制作を進めていました。しかし立川の新スタジオでは、そういった既存の仕組みを見直し、一連の作業にかかわるスタッフが編集作業や完成映像のチェックまでを一緒に行える環境を構築したいと考えていたのです。その実現に向け導入する専用線を使えば、荻窪に本体、立川にシンクライアントを配置したリモートワークステーションの活用も十分可能になると判断しました」(金田氏)

      そこで2019年5月の立川スタジオ開設に合わせ、システム更改が近づいていたコンポジットセクションのワークステーション20台をDell Precision 3930 Rack型ワークステーションに置き換えた、リモートワークステーション環境が導入された。

      一方、新たな3DCGアニメ制作用ストレージとして導入されたのが、「Dell EMC Isilon(アイシロン)」である。Isilonはコントローラーとストレージを一体化したノードを追加していくことで、性能と容量をリニアにスケールアウトさせることができるNAS製品。容量が足りなくなったらSSDやHDDを搭載したシャーシ(容量が異なっても可)を随時追加していくことができるため、大容量の3DCGデータも快適に活用することが可能だ。

      「Dell EMC IsilonはCG/映像業界での採用実績も豊富なので、以前から導入の機会をうかがっていました。実際に製品デモも拝見しましたが、容量拡張が非常に容易な点や、他社製品と比較して同じ性能を1/4以下のスペースで実現できること、ディスクをどんどん抜いていってもシステムが全く落ちない耐障害性の高さを評価しました。大事な作品データを保存するストレージですから、こうしたポイントは非常に重要です」と中村氏は語る。

      そこで立川スタジオ開設のタイミングで、荻窪オフィスに高パフォーマンスモデルの「Dell EMC Isilon H400」を4ノード、計240TB導入。立川スタジオとの間に引かれた専用線を介して、リアルタイムに3DCGデータの送受信が行える環境を整備した。

    • 運用管理の負担軽減とコスト削減を両立

      まだ新しいシステムが稼働してからそれほど期間はたっていないが、既に様々な効果を生み出しつつある。

      まず大きいのは、電源設備に制約を受けず、柔軟なシステム環境が構築できた点だ。立川スタジオでは特別な電源設備を導入することなく、多数のシステムが稼働している。特にシンクライアントの消費電力は、わずか7.5ワット。液晶ディスプレイの電力を含めても、1台当たり50ワットに届かないという。

    • 「立川スタジオでは、コンポジット用のシンクライアント20台以外に、3DCG用のワークステーションも70台稼働していますが、コストのかかるサーバールームは作っていません。今後、リモートワークステーションの本体をIDCなどに集約すれば、新たな拠点を開設する際にも特別な電源工事や空調工事が要らない点は、テナント選びの柔軟性を高めるだけでなく、トータルコストの低減にもつながるはずです」と金田氏は言う。

      次に運用管理の負担も大幅に減った。何かトラブルが起こっても立川まで足を運ぶことなく、本社のサーバールームで障害対応や再起動、マシンのセットアップなどを行うことができる。「まだ一度も故障が起きていないので経験はしていませんが、マシン交換なども目の届く範囲で迅速に行えるのは本当に助かります」と中村氏は喜ぶ。

      また、シンクライアントの導入は思わぬところでもメリットを生んだ。

      「2020年1月に顕在化した新型コロナウイルスの影響で、コンポジットセクションのスタッフ数名が、自宅から近い荻窪オフィスで仕事をしたいと申請してきました。その際も、弁当箱ぐらいのシンクライアントを荻窪に持ってくるだけで、立川で使っていた業務環境がそのまま使えてしまう。専用線でつながることが前提にはなりますが、スタジオ移動やレイアウト変更する際の柔軟性の高さを改めて実感しました」(金田氏)

    • 3DCG制作マシンでもリモート環境を順次導入

      Dell EMC Isilonを導入したことで、ストレージ運用管理の効率化も実現できた。

      「以前は各ストレージの状況をチェックするのが大変でしたが、Dell EMC Isilonには無償の監視・分析ツール『InsightIQ』が備わっており、現時点の情報だけでなく、これまでの履歴も含めた形で性能分析などが行えます。何か問題が生じた場合も迅速に原因を特定できるため、運用管理にかかる工数が以前の1/10以下に減った印象です」と中村氏は語る。

      また、Dell EMC Isilonの重複排除機能もインフラ環境の最適化に大きく貢献している。

      「3DCG制作では、一度作成したデータを撮影や編集など複数の業務で利用するため、同一のデータが様々な所に存在します。このため重複排除機能の効果が非常に大きく、約60%の容量を削減できました」と金田氏は語る。

      さらに万一の誤消去などに備え、Dell EMC Isilonのスナップショット機能で常時30日分のスナップショットを保持。すぐに戻せる簡易バックアップとして、安心な作業環境と運用性を両立することにも成功した。

      今回のコンポジットセクションへの導入成果を踏まえ、同社は今後、アニメ制作の中核となる3DCGセクションへも、Dell Precision 3930 Rack型ワークステーションを順次導入していく予定だ。

      リモートワークステーションという新しいインフラを武器に、これからもサンジゲンはグローバルなアニメ市場で新たな挑戦を続けていく考えだ。

    • 日経BP社の許可により、2020年4月20日~ 2020年5月31日掲載 の 日経 xTECH Special を再構成したものです。

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