物理ワークステーションの課題を 解決するテクノロジーを模索
1912年に創業したヤンマーは、1933年に世界で初めてディーゼルエンジンの小形実用化に成功した産業機械メーカーで、産業用エンジンを柱に、農業機械や建設機械、マリンエンジン、エネルギーシステムなどのさまざまな分野に事業を拡大し、グローバルに展開している。産業用エンジンの開発・生産を担うヤンマーパワーテクノロジーは、ディーゼルエンジンのマザー工場と位置付けられているびわ工場を中心に、主要部品の鋳造から組立まで一貫した生産を行い、独自に発展させてきたヤンマー生産方式を徹底し、年間2,000 機種以上に及ぶ多品種エンジン生産を可能としてきた。
「産業用エンジンには、耐久性や信頼性、整備性はもちろんのこと、高度な環境性能、さらにはコンパクトかつ高出力なものが求められるようになっています。このような市場要求に対応するため新規開発した高出力産業用ディーゼルエンジン4TN101(105kW)および4TN107(155kW)を2018年4月に発表しました。また、ガスエンジンやハイブリッドエンジン、デュアルフューエルエンジンなどのさまざまなニーズも生まれてきています。我々は、2019年1月に液化石油ガス(LPG)を燃料とした産業用ガスエンジン4TN88G(45.0kW)と4TN98G(63.0kW)の2 機種を開発し、今後はLPGとガソリンを切り替えて利用できるBi-fuel 仕様の追加も予定しています。また、トヨタ自動車と覚書を締結し、MIRAI 用燃料電池ユニットと高圧水素タンクをマリナイズして使用する船舶用燃料電池システムを開発し、2020年度内を目標に実証試験を開始し、実用化を目指すなど、新しい技術へも積極的に挑戦しています」とヤンマーパワーテクノロジー株式会社小形事業部 開発部 開発マネジメント部主幹の上里晃一氏は説明する。
高品質なエンジンを開発するには実機による試験評価はもちろんのこと、設計初期段階からのCAEによる解析も重要だと上里氏は説明を続ける。「エンジンの開発では、構造、機構、振動、音、熱、流体、燃焼など様々な物理現象を対象とした解析評価が必要であり、評価項目が多く計算負荷も高いためマシンパワーが必要となります。以前は、1つのエンジン開発プロジェクトを終えてから新たなプロジェクトに移行するスタイルだったので、解析業務は数台の物理ワークステーションで賄えていました。しかし、多種多様なエンジンを開発することが求められてくる中、物理ワークステーションを増強していった結果、設置スペースやファン騒音、発熱などの問題が顕在化していくことになりました」。
また、ヤンマーパワーテクノロジー株式会社小形事業部 開発部 陸用第三技術部の杉本正人氏も、当時を振り返って次のように話す。「解析データが各ワークステーションに乱雑に保存され無管理状態でした。またログイン状態で放置されることがあり、作業途中で離席しているのか、ワークステーションが空いているのかを判断できない事が問題でした。また解析計算を行うためには、自席のPCからワークステーションにデータを転送し、作業するために離れた場所にあるワークステーションに移動する手間もあり、効率的にできないかと悩んでいました」。
ワークステーションの画面を転送するような仕組みを試してみたが、導入には至らなかったというヤンマーパワーテクノロジーでは、2013年にNVIDIA GRID vGPUが発表されたことを機に、vGPUによるVDI環境の導入検討を開始する。