専門分野におけるリモートワークの課題と処方箋 先端技術教育に力を注ぐ専門学校に学ぶ「ワークステーションの活用法」

コロナ禍の中、世界的コンテストで受賞者を輩出

あらゆる産業でリモート化が進んでいる一方で、後れを取っている分野もある。設計・デザインなどを担うエンジニアリング分野はその一例だ。3D CADなどのグラフィックソフトを動かすには、一般的なビジネスPCではパワーが足りない。そのため、エンジニアリング部門は出社せざるを得ないという状況を生み出した。

これは企業のエンジニアリング部門だけでの話ではない。デジタルコンテンツを制作するクリエイターや、プロダクトデザインを担うデザイナーなどを育成する専門学校にとっても切実な課題である。リッチコンテンツや3Dのプロダクトデザインを制作するためには、ハイスペックなデバイスが必要になるからだ。

実際にアプリケーションを操作し、コンテンツを制作・検証しなければ、スキルアップは見込めない。しかし、コロナ禍で授業はリモートが基本になった。その間に限られた在学期間はどんどん過ぎていく。学生の焦りは募る一方だ。学校側としても、学生の期待に応えられないことに、じくじたる思いがある。

そんな状況を打破し、コロナ禍にあっても実践的な学びに取り組み続けた学校がある。福岡市にある麻生建築&デザイン専門学校だ。同校は、ダッソー・システムズ主催の世界的コンテスト「Project of the Year 2021」で、学生の2人が世界1位と3位を獲得した。

リモート下において、実践的な学びをどう実現するか。その解決の手段と取り組みとして同校が活用したのがワークステーションだ。これにより先生は指導やアドバイスを、学生たちも作品制作や、解析・シミュレーションをリモート環境で行えるようになった。ワークステーションを選択した理由とメリット、成果を上げるための同校の工夫について、次頁以降で紹介しよう。

全国初のラーニング・ラボを開設し次世代人材を育成

麻生専門学校グループ
麻生建築&デザイン専門学校
教務部 副主任
クリエイティブデザイン学科
プロダクトデザイン専攻 担任
ASO Learning Lab顧問
稲吉 貴博氏

麻生建築&デザイン専門学校は、福岡県内で13校を展開する麻生専門学校グループが運営する建築およびクリエイティブデザイン分野の専門学校である。

冒頭の「Project of the Year 2021」で受賞者を輩出したのは、クリエイティブデザイン学科プロダクトデザイン専攻だ。大手企業のデザイン部門で経験を積んだ講師や、デザイン事務所を経営する現役のプロによる直接指導で実践力を身に付けることができる。学生の指導にあたる副主任の稲吉 貴博氏はプロダクトデザイン専攻の特色を次のように語る。

「プロダクトデザイン専攻は2年制です。限られた時間の中でプロダクトデザイン力とエンジニアリング力を身に付けてもらうため、1年生の前期でCADなどのオペレーションの基本をマスターしてもらい、後期からはそれぞれのテーマに沿った作品づくりに取り組んでもらいます。企画・デザイン・設計まで幅広くこなせる実践力を養うことを重視しています」

3D CADや3Dプリンターといった業界の最先端技術も実践を踏まえた授業で学ぶことができる。中でも力を入れているのが3D CADのスキル向上だ。CAD/CAMソフトウエアのリーディングカンパニーであるダッソー・システムズの3D CAD/CAM/CAEソフトウエア「CATIA」を使った授業を行っている。CATIAは複雑な曲面を描き出し、デザイン性と緻密さを兼ね備えた製品設計が可能だ。航空機、自動車、建築、機械組み立てをはじめ、多くのものづくり現場で利用されている。

「プロダクトデザイン専攻の学生は、卒業後、ものづくりのデザイン設計の道に進んでいきます。常に最新の技術と環境で学びの場を提供するのは私たちの務めです。CATIAに関しては、その最新バージョンである『3DEXPERIENCE』を導入しています」と稲吉氏は話す。

2019年11月にはダッソー・システムズと共同で同校内に「ラーニング・ラボ(ASO Learning Lab)」を開設した。ダッソー・システムズが掲げる「Workforce of the Future(未来の働き方)」というコンセプトに基づいて各国で展開している次世代科学技術人材を育成する「SEEDプログラム」の一環である。ダッソー・システムズが開発したオンライン教材、世界各国の大学・研究機関・学生らからなるコミュニティへのアクセス環境を自由に活用できる。

3DEXPERIENCEやASO Learning Labのメリットを生かし、学生たちが作品づくりを通してスキルを高めていくためには、ハイパワーなワークステーションが不可欠である。そこで同校では、デル・テクノロジーズのDell Precisionシリーズを選定した。

流体解析やVRシミュレーションもスムーズに行える

「製品ポートフォリオが幅広く、3DEXPERIENCEをストレスなく使えるスペックの製品が豊富にそろっています。タワー型はもちろん、モバイルワークステーションでも3DEXPERIENCEによるデザイン設計から流体解析まで行えます」と稲吉氏は選定の理由を述べる。

ダッソー・システムズは3DEXPERIENCEを安定的に利用するための推奨端末を公開している。その端末の1つとしてDell Precisionシリーズが挙げられていたことも大きな決め手になったという。

同校ではまず2020年10月にASO Learning Lab用にタワー型の「Dell Precision 5820」を、2021年1月にモバイルワークステーションの「Dell Precision 7550」をそれぞれ1台ずつ導入。これと併せて、Dell Precisionシリーズを学校指定の推奨端末の1つに加えている(図1)。

図1●Dell Precision 5820(左)と7550(右)

Dell Precision 5820はリアルタイム処理能力が高いタワー型ワークステーション。CPUやGPUのカスタマイズが容易で、必要に応じて能力を拡張できる。一方のDell Precision 7550は小型・薄型の15インチ モバイルワークステーション。タワー型ワークステーションに匹敵する性能を有しておりAR/VRコンテンツの作成も可能だ

ASO Learning Lab用のモバイルワークステーションは、申請があればLab内で使用する場合は学生に貸し出す。「モバイルワークステーションは以前の機種より軽量でコンパクト。学生に貸し出したときも持ち運びに便利です。それでいて画面が大きく使いやすい」と稲吉氏は続ける。

モバイルワークステーションを活用する学生が増え、ASO Learning Labの環境も整ったことで、同校はコロナ禍の中でも学生に学びの機会を提供し続けることができた。これがProject of the Year 2021の受賞という大きな成果につながったという。

コンテストは世界38カ国から400件以上のエントリーがある大規模なもの。その中で1位を獲得したのがプロダクトデザイン専攻2年生の谷 拓希氏、3位を獲得したのが同じく宮崎 剛氏だ(図2)。

図2●「Project of the Year 2021」受賞作品

1位を獲得した谷氏、3位を獲得した宮崎氏の作品とも次世代レーシングカーのプロダクトデザインだ。流体解析やVRシミュレーションを行うことで、デザイン性だけでなく、工学的な完成度も高めることができた

麻生専門学校グループ
麻生建築&デザイン専門学校
クリエイティブデザイン学科
プロダクトデザイン専攻
谷 拓希氏

麻生専門学校グループ
麻生建築&デザイン専門学校
クリエイティブデザイン学科
プロダクトデザイン専攻
宮崎 剛氏

谷氏は受賞の要因を次のように語る。「ASO Learning Labの環境を活用することで、モデリングだけでなく、流体解析やVRシミュレーションも行えました。コンテストには次世代レーシングカーのデザインを応募しましたが、解析を行うと『シートが浅く、ハンドルが邪魔して人が座れない』など、デザインしただけでは分からない不具合がたくさん見つかりました。これを修正することで、デザインに意味を持たせることができました。Dell Precisionは解析やシミュレーションの動きが非常にスムーズで、全くストレスはありませんでした」。

宮崎氏が応募したのも次世代レーシングカーのデザインだ。谷氏と同様にデザイン後、様々な視点から流体解析を繰り返したという。「その結果、フロント/リアウイングの風の流れや圧力まで数値化して見ることができました。自分の考えとは違う結果に驚きましたが、修正することでより良いものになっていく。モデリングだけでは得られない達成感を得ることができました。以前の端末で流体解析を行うと、マシンスペックが足りずアプリケーションが落ちてしまうことがありましたが、今はそんな心配はありません」(宮崎氏)。

モバイルのメリットをフル活用 リモート作業も快適に

同校は学生の指導にも工夫を凝らした。緊急事態宣言中はほぼオンライン授業となり、対面での指導が難しくなったからだ。教師も在宅勤務割合が増え、活動自体がMicrosoft Teams上で行う形が増えた。具体的にはASO Learning LabのDell Precision 5820もしくは、Dell Precision 7550を在宅で放課後に起動し、Microsoft Teamsで該当学生を集め、ワークステーションの制御権を渡した。

「これにより、学生は3DEXPERIENCEをいつでも利用でき解析作業をできるようになりました。デザインの解析や検証に思う存分取り組めたことが、今回の受賞に大きく寄与していると思います」と稲吉氏は振り返る。

なお、3DEXPERIENCEによる流体解析はモバイルワークステーションでも行えるが、ASO Learning Labに配備したDell Precision 5820のほうがスペックは高い。また、VRシミュレーションには専用のヘッドセットなどが必要になる。3DEXPERIENCEを使いたい場合はリモートで制御権を渡し、VRシミュレーションを行いたい場合はASO Learning Labに来て作業を行う。必要に応じて学生が使い分けを図った。

ASO Learning Labの作業環境はその後の作品づくりにも非常に役立っているという。「企業のインターンシップ応募のための作品づくりに取り組んでいますが、クラウド型の3DEXPERIENCEを使えば、自宅でデザイン設計から流体解析まで行えます。作品や解析結果を先生に見せることで、有意義なアドバイスも頂けます」(宮崎氏)。

タワー型のDell Precision 5820に対する評価も高い。「ファンが静かで作業に専念できる。接続ポートの種類と数が多いので、VRヘッドセットなどの周辺機器も変換アダプターなしにつなぐことができ、使い勝手も優れています」(谷氏)。

プロダクトデザイン分野の仕事は探求心を持つことが大切だ。指示通りに図面やデザインを作成するだけでなく、「なぜ」を追求する。企業側もそういう人材を求めている。「解析やシミュレーションを繰り返し、デザインを意味あるものにしていく作業は、そういうスキルを養う上で非常に勉強になる。当校にはその環境が整っています。これからも導入したDell Precisionシリーズを軸に、業界最先端のプロダクトデザイン教育に力を入れていきます」と稲吉氏は前を向く。

麻生建築&デザイン専門学校は、今後も即戦力のスペシャリストを育成する実践的教育を通じ、学生たちの夢の実現を力強く支援していく考えだ。

日経BP社の許可により、2021年11月18日~2022年2月16日掲載の日経xTECH Active Specialを再構成したものです。
https://active.nikkeibp.co.jp/atcl/sp/b/21/10/12/00580/

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