製品のライフサイクル全体に責任を持つ 環境に配慮した製品で顧客のSXに貢献

社会の不確実性が高まる中、「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX ※)」に注目が集まっている。既に、SXに向けた取り組みを積極的に進める企業も出てきた。世界的なハードウエアベンダーであるデル・テクノロジーズはその先駆者的な存在だ。同社では、事業戦略の中でSXをどのように位置付け、具体的にどんな取り組みを進めているのか。ここでは同社の戦略や活動をひもときながら、今後必要なSXの在り方について紹介したい。(インタビュアー:日経BP 総合研究所 フェロー 桔梗原 富夫)※持続可能な社会の実現を経営課題と捉え、ESG経営を推進する中で成長を目指すアプローチ

2030年までのリサイクル目標は梱包材100%、製品部材50%以上

デル・テクノロジーズ株式会社
常務執行役員
クライアント・ソリューションズ統括本部長
山田 千代子氏

桔梗原SDGsやESG経営の関心が高まっています。最近はSXという言葉も聞かれるようになりました。こうした変化をどのように見ていますか。

山田以前は「経済的発展」と「環境への配慮」は相容れないものと捉えられていましたが、コロナ禍を機にこれが大きく変わってきたのを実感します。不確実な時代の中で、将来の会社の在り方や持続可能性を真剣に考えるようになったからでしょう。

SDGsやESG経営は企業の責任であり、むしろそういう企業こそが発展していく。社会全体がそんな方向に向かいつつあります。ESG経営と“稼ぐ力”をどう両立させるか。経営者には改めてそのことが問われているのではないでしょうか。

桔梗原デル・テクノロジーズでは早くから環境問題を意識した経営を実践していますね。これは1つの企業文化なのでしょうか。

山田当社は「テクノロジーと人類が協力して明るい未来を創造する」というビジョンを掲げています。これは創業者であるマイケル・デルの経営哲学です。

SDGsやESG経営もこの考えに基づいてグローバルで推進しています。その一環として「Moonshot Goal 2030」という目標を打ち出しました。製品の梱包材の100%を、製品部材も50%以上をリサイクル素材または再利用可能な材料から製造するというものです。目指すゴールは月のように高いけれど、2030年までに必ずみんなで達成するという思いが込められています。

希少金属や海洋プラも再利用。他業界やライバル企業とも共に歩む

桔梗原最も身近なクライアント製品を例に、目標達成に向けた具体的な取り組みを教えてください。

山田PCのリサイクルは既に1990年代から始めていますが、その取り組みは年々進化し広がりを見せています。2008年には市場で廃棄されているCDケースやペットボトルを回収・再利用し、この再生プラスチックを筐体に使用したPCの出荷を開始しました。これはPC業界初の取り組みです。

その後、販売したPC製品を回収し、プラスチックをはじめとする素材を再利用する「クローズド・ループ(循環利用)」という仕組みを構築しました。このクローズド・ループ内で再生されたプラスチックは125種類以上の製品に使われています。

世界的に問題になっている海洋プラスチックも製品の梱包トレイに利用しています。この取り組みを加速するため、環境NGOと当社が中心となって、2017年12月に国際イニシアチブ「NextWave Plastics」を立ち上げました。現在、家具世界大手のイケア、米HPなど10社が加盟しています。

桔梗原海洋プラスチックは地球規模となるだけに、この分野において競合メーカーと “共創”を推進していることは、非常に意義があることだと思います。

山田それだけ強い決意と危機感を持って取り組んでいるのです。当社の海洋プラスチックの再利用量は、活動を始めた2017年度で約2トンでしたが、2019年度には30トンに増えています。NextWave Plasticsでは2025年までに2万5000トンの海洋プラスチックを再利用する目標を掲げています。これはおよそ25億本の500mlペットボトルに相当する量です。

2021年からは製紙工程で排出されるオイルでつくる植物由来のバイオプラスチックも筐体素材に使用しています。

桔梗原大量に廃棄される電子機器や家電製品には有用な資源となるレアメタルが多く含まれ、都市鉱山とも言われます。こうした資源の循環利用も行っているのですか。

山田ハードディスクに使われるレアアースマグネット(希土類磁石)やアルミニウム、マザーボードに利用される金の循環利用も2018年から始めています。

航空宇宙業界のメーカーと協力し、規格外やスクラップとして廃棄されるカーボンファイバーもノートPCの筐体素材に使用しています。

大気汚染が深刻なインドと中国では、ユニークなリサイクルを開始しました。大気汚染物質に含まれる「すす」からインクの原料を精製し、それを梱包箱の印刷に使用しているのです。手前味噌で恐縮ですが、斬新な発想で私自身も驚きました。

製品に占めるリサイクル材料の使用比率は法人向けデスクトップ製品 Dell OptiPlexシリーズで40%以上、法人向けノートPC製品 Dell Latitudeシリーズで20%以上になりました(図)。Moonshot Goal 2030の目標達成度で見ると、梱包材のリサイクル率は既に90%に達し、今年発表した法人向けノートPC Latitudeの梱包箱はすべて100%再生可能な素材に切り替え、速いペースで進んでいます。クライアント製品の部材のリサイクル率は全体で約20%なので、今後はさらに加速度をつけて取り組みを進めていきます。

図 Latitude 5000シリーズのパーツごとの再生素材比率

製品の多くのパーツは再生プラスチック、海洋プラスチック、廃棄されたカーボンファイバー、バイオプラスチックなどを使って成型する。どのパーツにも20%以上の再生素材が使われているという

製品の設計段階から環境を意識、目標数値の見える化が推進のカギ

桔梗原新製品が出るたびに環境にやさしい製品になっていくわけですね。

山田再生素材を循環利用するだけでなく、製品は設計段階からサステナビリティを意識して開発を進めています。

今年4月に発売する13インチ型ノートPCのLatitude 7330 Ultralightは、最小構成重量967gで当社の法人PC史上最も軽量なモデルです。軽量化のためにパーツの素材を厳選して設計しました。マグネシウム合金や超軽量パネルを採用し、PC底面部のゴム足には植物由来のバイオプラスチックを使用しています。この梱包材は100%再生可能な素材です。

桔梗原サーバーをはじめとするデータセンター向け製品については、どのような取り組みをされていますか。

山田サーバー製品も再生プラスチックや海洋プラスチックを梱包材に利用しています。

これとともに進めているのが、シャーシの共有化です。以前は多様なシャーシを設計、試作することで産業廃棄物を多く生み出してしまう課題を抱えていましたが、共有化を進め、筐体の種類を集約することにより無駄な廃棄物を削減できるようになりました。

また、水を使わずエアーフローで効率的に冷やす「マルチベクター クーリング」という特許技術を当社で開発しました。PCIeスロットに搭載したデバイスの利用状況に応じて冷却ファンの風速を監視しコントロールするもので、また、システムボードのレイアウトを見直すことで、冷却効率を大幅に高めています。より少ない電力で効率的に冷却できるため、CO2排出量の削減につながります。

桔梗原SXを進める上で重要になるポイントは何だと思いますか。

山田きちんと目標を掲げ、その成果を数値で見える化することが重要です。何がどこまで達成できているのか。遅れているなら、その理由と対策を考える。数字があれば、議論がそういう方向に向かっていきます。

当社も年度ごとに目標の達成状況を社内外に公表しています。それが社員のモチベーションアップにつながり、お客様に活動を知っていただく機会になります。

活動成果を客観的に判断していただけるように第三者機関の認証取得も積極的に進めています。先ほどお話したクローズド・ループのほか、Energy Star(国際エネルギースタープログラム)、EPEAT(環境評価システム)、TCO Certified(持続可能性評価認証)などのエコラベルを数多く取得しています。

省電力化は8年間で最大80%向上。DXはSXを推進するイネーブラー

桔梗原「SDGsの重要性は理解できても、どう進めればいいかわからない」という企業も少なくありません。環境性能に優れた製品を導入することは、1つの手立てになりそうですね。

山田近年はZ世代を中心に、環境に対する意識が非常に高まっています。価格や性能だけでなく、SDGsの貢献が製品選択の重要な基準になっています。

お客様との商談でも「SDGsの取り組みを聞かせてください」「リサイクルの詳細をもっと聞きたい」という話が中心になることも少なくありません。環境やSDGsをどう考え、どんな取り組みをしているか。それを商取引の前提にする企業が増えているのです。

再生プラスチックを循環利用させることで、新しいプラスチックを使用する場合に比べ、当社のCO2排出量は11%削減できました。サーバーやクライアント製品の性能当たりの消費電力は年々低減され、2012年から2020年の8年間で70%から80%の省電力化を達成しています。

当社の製品を使えば、間接的ではありますが、環境への配慮につながります。ビジネスに欠かせないPCやサーバーについて、環境を意識することは、これからの企業経営を考える上でも大切なことだと思います。

桔梗原SXは企業の責任である一方、経済的発展を図るにはDXの取り組みも不可欠です。経営の中でこの2つをどう位置付けるべきと考えますか。

山田SXは企業の存続を懸けた究極の生き残り戦略です。DXはそれを実現するためのイネーブラー(成功の手段)と言えるのではないでしょうか。これを両輪で取り組む企業とそうでない企業は、10年後の市場でのポジションは全く違うものになっているでしょう。

デル・テクノロジーズはSDGsやESG経営に真摯に取り組んでいます。これらの点でお悩みがあれば、ぜひご相談ください。グローバルな知見や経験を基に、お客様の課題解決をご支援します。今後もクローズド・ループをはじめとするサステナブルな活動をさらに加速し、お客様と共に持続可能な社会の実現を目指していきます。

日経BP社の許可により、2022年4月13日~ 2022年5月17日掲載の日経xTECH Specialを再構成したものです。
https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/ONB/22/delltechnologies0413/

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