データ・マネジメントの新戦略 Vol.3 200を超える機能追加で飛躍的に進化 変革を果たしたハイエンドストレージ

ハイエンド製品の代表格として、ストレージ市場における重要なポジションを占める「Dell PowerMax」。その前身であるEMC Symmetrixの1号機が登場してから、既に32年が経過した。しかし長い歴史の中でも、今年はその大きな転機の年となった。これまで「Dell EMC」ブランドとして提供されてきた同製品が、「Dell」ブランドに統合。さらに2022年5月に開催された「Dell Technologies World(DTW)」では、200を超えるアップデートが披露された。今回はこのハイエンドストレージの進化に焦点を当ててみたい。

インテリジェントとソフトウエアデファインドが変革のキーワードに

デル・テクノロジーズ株式会社
ストレージプラットフォーム
ソリューション事業本部
システム本部 ディレクター
森山 輝彦氏

デル・テクノロジーズのフラッグシップ製品であるPowerMax。「世界で最もミッションクリティカルなアプリケーションをサポートするストレージ」という基本コンセプトは守り続けられている一方で、この間に様々な新技術や新サービスを取り込んできた。この継続的な進化こそが、PowerMaxの最大の特長だといえるだろう。

しかしこの32年の歴史の中でも、今年は転換点とも呼べるほどの変革を果たした。「今回、発表されたのは第10世代となりますが、基本コンセプトはそのまま継承しつつ、アーキテクチャは大きく進化しています。その大きなキーワードとしては、『インテリジェント』と『ソフトウエアデファインド』の2つが挙げられます」とデル・テクノロジーズの森山 輝彦氏は語る。

コンテナアーキテクチャが実装されたことはその一例だ。これによって新たなソフトウエア機能が追加・拡張しやすくなった。また、データ移行を行うことなく、いつでも次世代コントローラーにアップデートできる「Anytime Upgrade」も利用可能になっている。運用管理を行うためのマネジメントコンソールである「Unisphere 10 for PowerMax」も、これまで以上にシンプルになり、自動化機能も強化。コンソール自体の処理能力も拡張されており、1つのコンソールから複数のアレイ、膨大な数のボリュームを、より迅速に管理することが可能になった。

それぞれ異なる方向性を持つ新モデルのハードウエア構成

今回のリリースで新たに登場したのは「PowerMax 2500」と「PowerMax 8500」の2機種だ。アーキテクチャの進化に伴い、新たに取り込まれた機能数は200以上を数える。まずはそのハードウエア面における特徴から見ていきたい。

PowerMax 2500はモジュラータイプの製品で、最小で2ノード構成から利用可能だ。一方のPowerMax 8500は16ノードまで搭載可能なラック型のマッシブスケールアウトタイプで、1システムで最大18PBまでスケールできる。

PowerMax 2500はわずか5Uサイズで、ハイエンドストレージの機能を利用可能。一方PowerMax 8500は、ダイナミックファブリックを核としたマッシブスケールアウトアーキテクチャによって、性能と容量の柔軟な拡張を実現している

「まず、注目していただきたいのが、PowerMax 2500の最小構成が、5Uサイズで4PBだということです。これは1つの標準ラックに対して1/8のスペースであり、かなり高密度な実装形態です。このわずかなスペースから、PowerMaxのハイエンド機能が利用可能になったわけです」(森山氏)

一方でPowerMax 8500では、「マルチノードスケールアウトアーキテクチャ」を採用している点が、大きなポイントだ。これは、コントローラーノードとメディアエンクロージャーの間をダイナミックファブリックで接続し、それぞれを個別に拡張できるというもの。

「ダイナミックファブリックは、100GbpsのInfiniBandの上にRDMA over NVMe Fabric Interconnectを実装することで実現しており、これに接続する最小構成は2ノードペアとなっています。この構成でIOPS性能が不足した場合にはコントローラーノードだけを追加でき、容量が不足した場合にはメディアエンクロージャーだけを追加できます。つまり、性能と容量を切り離して拡張できるので、性能がボトルネックになるワークロードにも、容量がボトルネックになるワークロードにも、最適な形で対応できるのです」

今回発表された2モデルは、大きく異なる方向性を持つアーキテクチャを採用しているが、共通している部分もある。それは「データ削減エンジン」が強化されている点だ。

「重複排除のための新たなASICを入れることでハードウエアを一新し、データ削減効率を3.5:1から4:1に向上させました。また2ノード構成のPowerMax 2500を、IBMメインフレームでお使いいただくことも可能です。メインフレームでご利用いただいた場合には、3:1のデータ削減を保証するプログラムもご用意しています。このようなメインフレームを対象にした保証プログラムはほかに類を見ません」(森山氏)

キャッシュも強化されている。これまではキャッシュにDRAMを使っていたが、これに加えてOptaneメモリーも実装。より多くのメタデータを経済的にキャッシュできるようになった。なおこれらのハードウエアの強化によって、パフォーマンスは約50%向上しているという。

このようにハードウエア面では、より柔軟性の高いスケールアウトを可能にするとともに、ミッドレンジ方向への適用領域拡大を実現している。増大し続けるデータに対応しつつ、より小規模なシステムでも、高いミッションクリティカル性を享受しやすくなったわけだ。

ランサムウエアに対する強固な防御を実現

次にストレージOSである「PowerMaxOS 10」に着目し、ソフトウエア面での機能強化を見ていきたい。

ここで注目したいのが、セキュリティが大幅に強化されている点だ。「今回の機能強化によって、PowerMaxは世界で最もセキュアなデータプラットフォームになりました。データ保護の堅牢性は、かつてなかったほどに高くなったのです」(森山氏)。

それでは具体的にどのような機能が追加されたのか。その1つが、スナップショット機能を活用したランサムウエア対策機能だ。

「PowerMaxは、各ボリュームあたり最大1024、システム全体で最大6500万のスナップショットを取得できます。これに加えて、AIによって異常を検知する『CloudIQ』にも対応しており、データの改ざんや意図していない暗号化といったアノマリーも、即座に把握できます。異常が見つかった場合には、既に取得していたスナップショットから、直近の状態へと復元することが可能。これによって万一ランサムウエアに感染した場合でも、その影響範囲を最小化できるようになっています」

6500万ものスナップショットが取得できれば、数千ボリュームに対して10分ごとにスナップショットを取ったとしても、数週間分は保持できると森山氏。これならランサムウエア感染を検知した時点で、数分前(10分以内)の状態に戻せる。実際に米国の金融機関の中には、5~10分に1回の頻度でスナップショットを取得し、データの堅牢性を確保しているところが複数存在するという。

ランサムウエアに感染しデータが暗号化された場合でも、そのインシデントを即座に把握可能だ。これと最大6500万ものスナップショットを組み合わせることで、感染前の直近の状態に戻すことができる

また前回取り上げたPowerStoreと同様に、ハードウエアやファームウエアに対して、デジタル署名を行っている点も大きなポイントだ。工場出荷から顧客企業のシステムに設置するまでの間に、何らかの改ざんが行われていれば、この電子署名をチェックすることで即座に検知できるわけだ。

「これらのほかにも、マネジメントコンソールへのアクセスで多要素認証を行うといった機能も追加しています。ハードウエアからファームウエア、脅威検知、復旧、さらには運用管理の安全性に至るまで、エンド・ツー・エンドのセキュリティを実現しています」と森山氏は話す。

「Anytime Upgrade」以外でもデータ移行の悩みを解消

冒頭で、PowerMaxに「Anytime Upgrade」が実装され、データ移行を行わずにコントローラーのアップグレードができることについて触れた。これはデータ管理の手間とコストを削減する上で大きな貢献を果たす機能だが、同様の効果をもたらす機能はほかにもある。

その1つが、インテリジェントかつダイナミックな「データ最適化機能」だ。これは各アレイにおけるデータ配置やデータ利用状況を分析し、パフォーマンスが低下しているワークロードを検出した上で、その最適配置を計画・レコメンドするというもの。管理者は、必要であれば数クリックの操作でシームレスなアレイ間のデータ移行を実施することが可能となる。さらに管理者がポリシーを設定することで、クラウドサービスに対して、スナップショットを移動することも可能であり、そこから別のPowerMaxへデータを復旧させることもできる。

データ配置やワークロードを分析し最適なプランを提案、管理者は数クリックでシームレスなデータ再配置を完了させることができる

これに加えて「ビルトインマイグレーション」も、データ移行の悩みを解消する機能だ。これはほかのPowerMaxからだけではなく、デル・テクノロジーズのほかのストレージ製品、他社ストレージ製品からも、容易にデータ移行を行える機能。データだけではなく構成情報も移行されるため、移行後の後処理の作業負担を大幅に軽減できる。

「堅牢性が増しただけではなく、より使いやすくなったことや、新技術に追随しやすくなった点も、新しいPowerMaxの特徴です」と森山氏。新しく進化したPowerMaxは、ハイエンドストレージの概念を、大きく変える可能性があるだろう。

日経BP社の許可により、2022年6月24日~ 2022年7月22日掲載 の 日経 xTECH Special を再構成したものです。
https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/NXT/22/delltechnologies0624/

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