AIの実導入が進まない日本企業、人材不足の中AI活用を加速する方法は

IT人材不足でAI活用が進まないジレンマをどう解消するか

注目を集めるデータ分析やAI活用。そのインパクトの大きさは、実用化に向けて研究が進められている自動運転を見るだけでも明らかだ。AIを活用した自動運転は、道路インフラに大きな手を加える必要がないため、多くの国や地域に適用できる。そしてこれが実用化されれば物流のあり方はもちろんのこと、自動車のシェアリングも加速し、自動車業界全体を大きく再編する可能性も秘めている。

同様のことは自動車や物流だけではなく、様々な領域で進んでいくはずだ。ある調査では、AI市場の成長は年率約2倍になると見込まれており、AIへの投資を戦略的に増大させていかなければ、今後10年、20年後には生き残れない企業も続出するという指摘もある。

このことは日本政府も強く意識しており、2016年には当時の安倍内閣が、人工知能の研究開発目標と産業化のロードマップを策定するため、「人工知能戦略会議」を発足させた。2019年には国のAI戦略の基本的な考えを明確にした「AI戦略 2019」を公表。AI人材を育成するため、大学入学共通テストに関連問題を出題することも計画されている。

しかし日本企業の足元を見ると、AI活用はなかなか進んでいないというのが実情だ。情報処理推進機構(IPA)が2020年2月に公開(2020年11月に更新)した「AI白書2020」によれば、調査対象となった525社のうちAIを実導入している企業は、わずか4.2%にとどまっている。その理由は複数考えられるが、大きな原因の1つは「人材不足」だ。IPAの調査によれば、IT人材の量が不足していると回答した企業の割合は89.0%に達している。

十分な人材がいない中、AI活用をどう加速していくか。日本企業のほとんどは、この共通課題に直面していることになる。それでは具体的にどのようなアプローチが効果的なのか。その解決策を考えてみたい。

人材不足がハードルになる学習モデルの作成・検証の解決法

「AI活用を加速していくためには、まずAIプロジェクト全体の流れを把握し、どの部分で人材が不足しやすいのかを理解する必要があります」。このように語るのは、デル・テクノロジーズの増月 孝信氏。その全体像を示したのが次の図1だ。

図1●AIプロジェクトの全体像

大きく10のステップがあり、それぞれにクリアするための勘所がある。その中でも人材不足の問題に直面しやすいのが「学習」と「学習モデルのテスト」だ

「AIプロジェクトには、大きく10のステップがあります。各ステップはそれぞれ重要であり、うまく進めるために必要な勘所が存在します。その中でも人材不足に直面しやすいのが、7~8ステップ目の学習と学習モデルのテストです」(増月氏)

もちろんそれ以前の「ビジネス課題の理解」や「データ収集」でつまずくケースも少なくない。しかし「ビジネス課題の理解」はワークショップの実施などで基本的な考え方やアプローチを学ぶことで前進しやすくなり、「データ収集」はデータレイクの構築といった仕組みづくりでクリアできる可能性が高い。しかし「学習と学習モデルのテスト」に関しては専門知識を持つ人がトライ&エラーを繰り返す必要があるため、人材がいない状態で進めることは難しい。

「もちろん最初に『ユースケースをどう選択するか』もAI活用を行う上で重要なポイントです。ただ、それが適切に決まったとしても、次にそれをモデルに落とし込めなければ結果を得ることはできません。そうしたことから、最近大きな注目を集めているのが『AutoML』です」と、デル・テクノロジーズの松本 梧廊氏は説明する。

AutoMLとはその名が示す通り、機械学習(ML:Machine Learning)を実際の問題に適用するプロセスを自動化し、どのようなモデルを選ぶべきなのか、そこで指定するパラメーターをどう選択すべきかなどを、自動的に決定、もしくは推奨する仕組みのことだ。

機械学習のモデル構築では、既に数多く存在するモデル作成手法の中から適切なものを選択し、それに様々なパラメーターを与えながら、実際の問題に適合するか否かを確認していく必要がある。モデル作成手法にはそれぞれ得意分野と不得意分野があり、まずは適切なモデル作成手法を選択することが、実装までの時間を短縮する上でのカギになる。

しかし最初に選んだモデル作成方法が適切とは限らず、試す必要があるパラメーターも多岐にわたる。場合によっては試行錯誤の最中に、学習のために用意したデータに問題があることが見つかるケースも少なくない。つまり機械学習のモデル作成とは、霧で前が見えにくい状況の中、正しい道を手探りで見つけ出すといった感覚に近い。このような“手探り状態”からユーザーを開放するのが、AutoMLなのである。

学習モデルの作成・評価を自動化したAIのビジョナリー企業

この分野において高い技術力と実績を持っているのが、H2O.aiである。同社は2012年にシリコンバレーで設立され、グローバルにAIプラットフォームを提供する企業。その実力のほどは「Kaggle Grandmaster」の在籍者数を見るだけでも明らかだ。

機械学習の世界には「Kaggle」と呼ばれる約40万人が集まるコミュニティがあり、そこではデータサイエンティストとしての技量を競うコンペティションが行われている。「Kaggle Grandmaster」とはそこで上位になった人たちのこと。全世界でも200人強しか存在しない中、22人がH2O.aiに在籍している。またGartnerの調査でも、「Cloud AI Developer Service」と「Data Scientist and Machine Learning Platform」でビジョナリー企業として評価されている。

「当社のモットーは『世界一流のAIノウハウ活用ですべての会社をAIカンパニーへ』です。既に当社の製品は世界中の数多くの企業や組織で活用されており、H2O.ai製品を利用しているユーザーコミュニティのメンバーも20万人を突破しています」とH2O.aiの柿崎 修氏は語る。

このH2O.aiが提供するAutoML製品が「H2O Driverless AI」だ。”Driverless”というのは「運転手不要」を意味する。車の自動運転のように、AIのモデル作成も自動化してしまおうというコンセプトから生まれたもの。そこには、同社に所属する数多くのエキスパートのノウハウが凝縮されている。

それでは具体的に、どのようなイメージで利用できるのか。その設定画面例が以下の図2だ。

図2●「H2O Driverless AI」の基本設定画面像

ここで必要な項目を設定するだけで、モデルの作成と検証が自動的に行われる。設定すべき項目はそれほど多くなく、データサイエンティストが作成した独自レシピのインポートもこの画面で実行可能だ

「H2O Driverless AIは、データ変換、データのどこに着目して学習を行うかを決める特徴量エンジニアリング、それに基づくモデル作成、モデルの判定結果の評価、推論に用いるスコアリングパイプラインの作成、そしてそのスコアリングパイプラインを実装するデプロイの選択肢を豊富に提供しています」とH2O.aiの小口 尋之氏は説明する。

上に示した画面は学習モデルの基本設定を行うためのもの。ここに表示されている項目を指定するだけで、すぐにモデルの作成と検証が行えるという。「もちろん知識のある方は、より詳細な設定を行うことも可能です。データサイエンティストが作成した独自レシピのインポートもこの画面で行えます」(小口氏)。

モデルの作成・実行を行った後には、そのモデルがどのような特性を持っているのかがこの画面に表示される(図3)。さらにモデルの種類に応じた各種評価指標を、グラフで表示することも可能だ。

図3●モデルの精度をグラフで表示している画面

作成されたモデルが十分に機能しているのか、どのような振る舞いを見せているのかなどを、適切に評価できる

これによって機械学習に関する知識が十分にない人でも、様々なモデルを簡単に試し、その中から最適なものを短時間で見つけられるわけだ。

実機で試せる『体験ゾーン』もデルが都内に用意

そしてもう1つ注目したいのが、作成されたモデルに関するドキュメンテーションも自動的に生成される点だ。

「AutoMLを活用することで、機械学習の解釈可能性が高まり、モデルを理解・信任できる状態になります。機械学習で直面する人材と時間の問題だけではなく、信頼の問題も解決できるのです」と柿崎氏は話す。AIのブラックボックス化は大きな問題になっており、北米ではAIによる意思決定を行う際に、行政当局にモデルを解釈できる書類を提出する必要がある。最近では日本企業の間でも「説明可能なAI」に対するニーズが高まっているが、こうした要求にも対応可能なわけだ。

こうした特徴が評価され、H2O Driverless AIは既に数多くの企業や組織で活用されている。そのユースケースも、製造業の予知保全や金融業における不正検知、保険の顧客離反予知、ITシステムへの攻撃検知、医療分野での画像診断、企業会計における監査支援など、実に幅広い。

それでは実際にこれを試すにはどうすればいいのか。「当社ではH2O Driverless AIの機能検証ができる『AI Experience Zone』という環境を都内に用意しています」と話すのは、デル・テクノロジーズの山口 泰亜氏だ。

AI Experience Zoneでは、製品そのものの全体像から実際の操作方法の理解、運用イメージの明確化、実際のデータを利用した評価・検証まで行える。「ここで当社のAIスペシャリストと一緒に、お客様の課題をどのように解決できるのかを考えながら、製品を試していくことが可能です。またほかのソリューションと組み合わせた検証も行えます」(山口氏)。

デル・テクノロジーズの「AI Experience Zone」

H2O Driverless AIの概要や操作方法の理解、運用イメージの明確化、機能検証などを行えるようになっている

これに加えてデル・テクノロジーズでは、AutoMLを最適な状態で活用するための「リファレンス・アーキテクチャ」も策定している。「H2O Driverless AIにも最適化されている上、HadoopやSplunkといった主要なデータソリューションや、学習を高速に行うためのGPUなども含まれています。もちろんAI Experience Zoneにも、このリファレンス・アーキテクチャに基づいた環境を用意しています」(山口氏)。

このような環境で試すことができれば、AutoMLの実力も把握しやすくなる。今後AutoMLを理解し、使いこなせるようになれば、AI活用のハードルを下げ、人材不足の中でAI活用を加速するという難しい課題に、対応可能となるだろう。

日経BP社の許可により、2021年10月15日~ 2022年1月13日掲載の日経xTECH Active Specialを再構成したものです。

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