テレワーク下の営業手段として注目される動画制作、事例に学ぶ成功の秘訣

担当者のスキルが出やすいオンライン会議における営業活動

首都圏や関西圏を中心に、2021年1月に2度目の緊急事態宣言が出た。このような中、各企業の営業担当者やコンサルタントは、活動が難しい状況になっている。製品やサービスを顧客に直接説明・提案したくとも、面会が制限されていれば顧客訪問もできないからだ。

このような問題に直面した結果、オンライン会議システムの活用に踏み切った企業が増えている。しかしリアルタイムのオンライン会議では、担当者ごとのスキルによって情報の伝わり方に大きな差が出てしまい、不慣れな担当者が戸惑うケースも少なくない。そこで注目されつつあるのが動画制作である。自社製品やサービスの説明を行う動画をあらかじめ制作し、それを併用しながらオンラインで提案を行うことで、担当者ごとのスキルの差を解消しやすくなるからだ。

また、このような動画を動画サイトや自社サイトに掲載しておけば、それ自体が自律的な営業ツールとして機能することも期待できる。これによってオンラインでしか活動できないという状況を逆手に取り、他社に比べてより効率的かつ効果的な営業や提案を実現できるチャンスを手に入れることが可能になる。

ただし、このような動画の制作を専門企業に委託すると、それなりのコストと期間が必要になる。また、細かい部分を修正・改定したい場合にも、タイムリーでクイックな対応は難しい。こうしたことから、営業活動や提案活動で使う動画の制作を社内で行う企業も増えている。しかし業務として動画制作を行っていない一般的な企業では、当然ながら動画制作のノウハウは持ち合わせていないだろう。そのため「どこから手をつけていいのか分からない」と感じている人も多いはずだ。

そこで、ここでは既に社内で営業・提案用動画の制作を行っている先行企業の事例を基に、社内で営業・提案用動画の制作を行う際の成功のポイントを考察。動画制作の環境をどう整備すべきなのかについて紹介したい。

動画制作に着手するものの編集マシンの遅さがハードルに

デル・テクノロジーズ株式会社 クライアントソリューションズ 統括本部 ビジネスディベロップメント事業部 クライアントテクノロジスト マネージャー 川口 剛史氏

自社製品やサービスに関する動画の制作にいち早く取り組み、着々と経験を積んできた企業の1つが、デル・テクノロジーズである。デルというとオンラインでパソコンを販売する企業というイメージを持つ方も多いかもしれないが、それは既に過去の話。現在では幅広いITソリューションを横断的に提供する総合ITベンダーとして、数多くの企業に最先端のテクノロジー製品やソリューションを提案しているのだ。

当然ながらこれまでの日常的な営業・提案活動は、客先に出向いて「オンサイト」で行われており、イベント開催によって顧客を集めることも多かった。しかしご多分に漏れず、同社も営業・提案活動のオンライン化に踏み切らざるを得ない状況に直面する。

「イベント開催が難しくなったため、Zoomなどを使ったウェビナーが増えていきました」と語るのは、デル・テクノロジーズの川口 剛史氏。最初のころはリアルなイベントでのセミナーと同様に、PowerPointの資料を画面に映し出しながら、淡々と説明を行っていたと振り返る。

「しかし会場で直接お話しているときとは異なり、オンラインでは20~30分でお客様が飽きてしまい、集中力が低下していくことが分かりました。またイベント会場では実機展示による相乗効果も見込めましたが、オンラインではそれも期待できません」(川口氏)

そこで着手したのがオリジナル動画の制作だった。実機の紹介を交えた動画を事前に制作することで、興味が持続するコンテンツを作れるのではないかと考えたという。まずはスマートフォンなど自宅でそろえられる機材で撮影を行い、それを自宅の一般的なPCで編集するとことからスタート。動画編集ソフトも商用利用が可能な無償版製品をインターネットで探し出した。これによってまず2020年7月に、1分程度の動画を試験的に制作。しかしここで大きな壁にぶつかることとなる。

川口氏が制作した動画の編集中の画面

スマートフォンで撮影した動画は意外と高品質で、編集ソフトもすぐに使いこなせたという。しかしここで大きな問題になったのが、編集用PCの能力の低さだった

「スマートフォンで撮影した動画は思った以上に高品質で、動画編集ソフトも1時間程で問題なく使いこなせました。問題だったのはそのソフトを動かすPCの能力です。編集中の動画の表示はカクカクしており、1分程度の動画をエンコードするのに12分もかかってしまったのです」(川口氏)

モバイルワークステーションで一気に加速した編集スピード

デル・テクノロジーズ株式会社 クライアントソリューションズ 統括本部 アウトサイドスペシャリスト 部長 中島 章氏

そこで川口氏が行ったのが、モバイルワークステーションの手配だった。自社で販売している「Dell Precision 5750モバイルワークステーション」を会社から借り出し、自宅に設置して編集用マシンにしたのである。「今回使ってもらったのは、17インチディスプレイを装備したモバイルワークステーションです」と説明するのは、同社の中島 章氏。最新のインテル CoreまたはXeon プロセッサーを搭載するほか、NVIDIA グラフィックスもQuadro RTX 3000まで内蔵可能であり、ストレージにはM.2 PCIe NVMe SSDを採用しているという。「もともとは3次元CAD/CGソフトを使うエンジニアやデザイナー向けの製品ですが、動画編集でも高いパフォーマンスを発揮します」。

実際にこのワークステーションを使うことで、編集作業は大幅に効率化されたと川口氏。編集中の動画はスムーズに表示されるようになり、1分の動画で12分かかっていたエンコードも2分で完了するようになったという。「そのとき使っていた無償版の編集ソフトはGPUに対応していなかったので、GPUに対応した有償版ではさらに高速な処理が可能になるはずです」(川口氏)。また、16:10比率の17インチディスプレイも、動画編集に適していると指摘。動画編集時には画面下部に横方向のタイムラインバーが表示されるが、その操作をきめ細かく行えるからだという。これによって、川口氏の動画制作は一気に加速することになる。1分のテスト用動画を制作した後、8月にはオンラインイベント向けの動画を制作。9月には20分、10月には30分と、制作コンテンツの尺は次第に長くなっていった。通常業務を続けながら、11 月までに6本の動画を制作。「最近ではすっかり動画編集にも慣れたので、チームメンバーが撮影した動画をオンラインで送ってもらい、それを私が編集するといったことも行っています」(川口氏)。

急速に広がるユーザー層、広報担当者からの問い合わせも増加

動画編集に適しているモバイルワークステーションは「Dell Precision 5750モバイルワークステーション」だけではない。デル・テクノロジーズではほかにも以下のように、複数のモデルをモバイルワークステーションとしてラインアップしている。

「Dell Precisionモバイルワークステーション」のラインアップ。多様なモデルから最適な製品を選択可能だ

「モバイルワークステーションというと分厚くて重くて高い、というイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、それは既に過去の話です。例えば最新モデルのPrecision 5550モバイルワークステーションはわずか11.65mmの厚さしかなく、Precision 3560の重量は1.58kg(最小重量)しかありません。また、販売価格もPrecision 3560ベーシックモデルで17万4980円(税抜き・配送料込み)と、高スペックPCとそん色ない価格で購入できます」(中島氏)

実際にこれらのモバイルワークステーションへの引き合いは増えているという。その中には当然ながら、従来のユーザー層であるエンジニアやデザイナーの利用を想定しているケースも多いが、そうではない職種の人々が動画編集を行うために導入を検討する事例も最近では目立つようになってきたという。

「例えばある企業では、広報の方が動画制作を行うために購入を検討されています。実は自宅のPCで編集を行おうとしたところ、川口と同じようにパフォーマンスの問題に直面し、社内のIT部門に相談したのだそうです。そのときに、ワークステーションでなければスピーディーな動画編集はムリ、と言われたのだとお聞きしています」(中島氏)

社内で動画制作を行う企業は、今後さらに増えていくはずだ。その中で多くの人が、編集スピードの重要さに気付くことになるだろう。動画編集スピードの差は、コンテンツ制作のフットワークに直結し、ひいてはビジネススピードにも大きな影響を与えることになる。また、スピーディーに数多くの動画を編集できるようになれば、短期間で経験を積むことができ、より高品質で説得力のあるコンテンツを生み出すことも容易になる。

まずは適切な環境づくりを行うこと。これこそが成功への第一歩だと言っても、決して過言ではないのである。

日経BP社の許可により、2021年1月26日~ 2021年4月28日掲載 の 日経 xTECH Active Special を再構成したものです。

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