マルチクラウド環境の5つの課題を解消 コンテナ基盤の最前線に迫る 敷居の高かった「ベアメタルOpenShift」を簡単にする秘策

クラウドネイティブなアプリケーションの作成・実行を可能にするものとして、注目されているコンテナ技術。その活用基盤として特に大きな期待が寄せられているのが、Red Hat OpenShiftである。これをオンプレミスとパブリッククラウドの両方に展開することで、一貫性のあるマルチクラウド環境が実現できるからだ。オンプレミス側でシンプルかつ効率的なシステム構成にするには、「ベアメタル上でOpenShiftを動かす」ことが理想的だ。しかしこれまでは、OpenShiftの導入やライフサイクル管理を手作業で行う必要があり、これが大きなハードルになっていた。それが、最近ではこの状況が大きく変わりつつある。ここでは、「ベアメタルOpenShift」の最前線を見ていきたい。

マルチクラウド環境で顕在化する5つの課題

急速な勢いで進んでいる企業システムのマルチクラウド化。既存のオンプレミスシステムや自社データセンターと、パブリッククラウド(以下、クラウド)を連携させたシステム環境は、既に当たり前のものになりつつある。またここ数年は、複数のクラウドを使い分ける、以前使っていたクラウドから別のクラウドへと乗り換える、といった事例も増えてきた。

このような状況の中で「様々な課題が顕在化しています」と指摘するのは、デル・テクノロジーズの羽鳥 正明氏だ。

具体的には、5つの課題があるという。1つ目は「コストが予測しにくいこと」。クラウドの利用が増えれば、将来必要なコストをすべて予測することが困難になり、計画外のコストへの対応が必須となる。また複数のクラウドを使い分ける場合には、それぞれの課金体系が異なるため、計算が複雑になる。

2つ目はクラウドごとに管理方法が異なることによる「管理の複雑化」だ。特にオンプレミスシステムとのデータのやり取りがある場合には、データ運用がさらに複雑化する。3つ目は「機能の不整合」だ。仮想マシンやストレージの仕様はもちろんのこと、セキュリティーやデータバックアップ機能もクラウドによって異なるため、マルチクラウド全体の一貫性を保つのが難しい。

4つ目は「スキルギャップ」だ。クラウドごとに求められるスキルが異なるため、それぞれに精通した人材が必要になる。そして最後の5つ目が「可視性の悪さ」だ。どこにデータを保管しているのか、それをどのアプリケーションが利用しているのかといった「全体像」の把握が難しくなる。その結果、セキュリティーやコンプライアンス上の問題が生じる危険性もある。

「TechTargetのEnterprise Strategy Groupと共同で実施した調査によれば、97%の企業がオンプレミスとクラウドとの間の一貫性を求めるようになっており、49%はハイパースケーラーの運用方法を、そのままオンプレミスでも実施したいと回答しています」と羽鳥氏は語る。

その一方で、最近のシステムトレンドとして「コンテナへのシフト」が進んでいることも注目すべき重要な変化だ。

「ガートナーによれば、2028年までに95%の企業が、コンテナ化されたアプリケーションを本番環境で実行すると予測されています。つまり近い将来には、コンテナ化されたアプリケーションが主流になっていくのです」(羽鳥氏)

クラウド化への取り組みが課題解決のチャンスに

マルチクラウドの5つの課題とコンテナ化は、どのように結びつくのか。「コンテナ環境を適切に選ぶことで、マルチクラウドで生じている一貫性の欠如を、根本から解決できる可能性があります。その最有力候補となるのが、Red Hat OpenShiftです」と羽鳥氏は言う。

コンテナ市場は年率23%で成長しているが、そのなかで47%のシェアを持つのがRed Hat OpenShiftだ。

「OpenShiftが市場をリードしている最大の理由は、エンタープライズグレードのKubernetesを提供しているからです。Kubernetes自体はオープンソースのクラウド基盤ですが、これだけではエンタープライズでの運用は難しい。またコンテナだけではなく仮想マシンもサポートしているため、既に利用している仮想化環境からコンテナ環境への移行も容易です。これからコンテナ環境を構築しようと考えている企業も、その多くはコンテナ基盤としてOpenShiftを想定しているはずです」(羽鳥氏)

エンタープライズの用途で数々の優位性を持つOpenShiftだが、加えてもう1つ、マルチクラウド環境で使うべき理由があるという。それは、「複数のハイパースケーラーとオンプレミスで、同じように利用できる」という点だ。これをマルチクラウドに展開することで、一貫性のある環境を実現できるわけだ。

「現在のOpenShiftの導入形態で最も多いのが、クラウドに導入してコンテナ環境を構築する、というものです。しかしこの方法では、コンテナ化にコストがかなりかかるため、最近ではオンプレミスの仮想化環境にOpenShiftを導入してコンテナ化を進めていこうという取り組みも多くなってきました。その際の一般的な稼働基盤はVMware環境です。OpenShiftではVMwareデプロイのフルスタック自動化を実現しているため、初期設定や導入が容易となるからです」(羽鳥氏)

ただし、オンプレミスの仮想化環境へのOpenShift導入には、1つ重要な課題がある。それは、ハードウエアとOpenShiftとの間に存在する仮想化環境がオーバーヘッド(間接的な処理コスト)を生み出してしまうということだ。

「オンプレミス環境のOpenShiftを効率よく動かすには、ベアメタル(仮想化環境ではなくサーバーハードウエア上で直接動かすこと)での利用が理想的です。これなら仮想化環境のオーバーヘッドが生じないため、ハードウエアの能力を引き出しやすくなるからです。またハイパーバイザーのライセンスと管理に伴うコストを排除できるため、コストと複雑さも削減可能です。さらに、システム構成要素が少なくなることでアタックサーフェス(攻撃対象)も減少するため、セキュリティーの向上も期待できます」(羽鳥氏)

ベアメタルへのOpenShift導入を簡素化・自動化

ただし、ベアメタルでのOpenShift導入にも問題が残る。それは初期設定や導入作業が難しいという点だ。VMware環境ならばOpenShiftにてツールが用意されており、これを使うことで導入を簡素化できる。これに対してベアメタルではこのようなツールがなかったため、すべての作業をマニュアルで行う必要がある。

この問題の解消に向け、デル・テクノロジーズが提供を開始したのが「Dell APEX Cloud Platform(ACP) for Red Hat OpenShift」だ。

「これはベアメタルへのOpenShift導入・管理を容易にするため、Red Hatとデル・テクノロジーズが共同で開発したインフラストラクチャです。初期導入からその後の規模の拡張、ライフサイクル管理に至るまで、複雑さをできるだけ排除するように設計されており、運用の簡素化・自動化を実現できます」(羽鳥氏)

Dell ACP for Red Hat OpenShiftは大きく3つのコンポーネントで構成されている(図1)。第1は中央にあるコンピュートノード。これは最新世代のDell PowerEdgeをベースにしており、この上でOpenShiftを動かすことになる。

図1 Dell ACP for Red Hat OpenShiftの全体像
OpenShiftを動かすためのコンピュートノード、データ基盤となる高性能SDS、自動化された運用管理基盤で構成されている。この中でも特に重要なのが運用管理基盤であり、導入やアップデートの作業時間を手動で行う場合と比較して10分の1まで削減可能だ

第2は右側にあるストレージノード。これはエンタープライズクラスの高性能かつスケーラブルなSDS(Software-Defined Storage)であり、ノードを追加するだけで性能を高めることが可能だ(図2)。

「ノード数に対して性能がリニアに増大していくため、性能予測が行いやすく、レイテンシも低く抑えられています。また99.9999%の可用性を実現しているため、ミッションクリティカルなワークロードが求めるSLAを満たすことも容易です」(羽鳥氏)

図2 Dell ACP for Red Hat OpenShiftのSDSのスケーラビリティ
ノード数に対してリニアに性能が伸びていることが分かる。また99.9999%の可用性も実現しているため、大規模かつミッションクリティカルなワークロードにも、問題なく対応できる

そして第3が左側にある、自動化された運用ソフトウエアだ。

「デル・テクノロジーズはこれまでもVxRailで、ハードウエアレイヤーとハイパーバイザーレイヤーの統合管理を実現してきました。その知見を応用し、ハードウエアとOpenShiftの一括管理を可能にしたのが、この運用管理基盤です」と羽鳥氏は話す。

導入はウィザード形式で行えるようになっており、手作業で80時間程度かかるOpenShiftの導入を、約6時間程度にまで短縮可能だという。つまり10分の1以下の時間で導入できるわけだ。

ウィザード形式での導入のメリットはもう1つある。導入時の試行錯誤の排除や、導入構成がある程度パターン化されるため、万一問題が発生した場合でも、デル・テクノロジーズ側で迅速に状況を把握してサポートできる点だ。

導入後はOpenShiftの管理画面を通じて、ハードウエアまで管理可能。既にOpenShiftの運用経験がある管理者であれば、使い慣れた画面をそのまま使い、コンテナ環境のすべてを把握できる。

図3 Dell APEX Cloud Platform for Red Hat OpenShift の管理画面例
使い慣れたOpenShiftの管理画面を通じて、ハードウエアレイヤーの運用管理まで行える

導入だけではなくアップデートの時間も90%削減可能

さらに、OpenShiftのアップデートを自動化できる点も、Dell ACP for Red Hat OpenShiftのメリットの1つだ。

「Dell ACPの運用管理基盤には、自動化されたライフサイクルマネジメント機能が装備されています。これによってOpenShiftのスタック更新にかかる時間も、約90%削減できるのです。アップデートの内容は、ハードウエアとの互換性も含めてすべてデル・テクノロジーズが事前にチェックしており、整合性を担保した上で適用されます」(羽鳥氏)

なおデル・テクノロジーズでは、メジャーなアップデートにかかわる検証作業を2万1000時間以上掛けて行うという。もしこれを1人で行ったと仮定すれば、10年に相当する作業量となる。

Dell ACP for Red Hat OpenShiftでベアメタルOpenShiftを実現できれば、仮想化環境上に構築するよりもシステム全体がシンプルになる上、コストパフォーマンスも向上する。当然ながら長期的なTCOは、クラウド上で構築するよりも安価になることが期待できる。そして導入はもちろんのこと、日々の運用も簡素化・自動化できる。アップデート実施に伴う不安も解消でき、最新機能へのキャッチアップも容易になるはずだ。

「Dell ACPでオンプレミスのOpenShift環境を変革し、これと同じ環境をクラウド上にも展開すれば、マルチクラウド全体で一貫した運用を実現することが可能になります。またデータを自由自在に移動でき、アプリケーションのモビリティ実現も容易になります。これによって、データやワークロードを、常に最適な場所に配置することが可能になるのです」(羽鳥氏)

なおDell ACPは「for Red Hat OpenShift」以外にも、Azureのクラウドスタックをオンプレミスで実行可能な「APC for Azure」などが提供されている。これらも基本的に同じ構成になっており、共通のSDSを使っているため、データの相互運用が可能だ。

「ITはこれから大きな変革期を迎えることになります。これまで企業システムは、ハードウエア上で直接OSを動かすベアメタルから、仮想化環境へと進化してきましたが、これからは仮想マシンとコンテナが混在する環境が当たり前になるでしょう。現在のコンテナ環境の多くは、ハイパーバイザー上にKubernetesを動かすというオーバーヘッドを抱えていますが、シンプルで効率的な環境に向けて、1つの共通基盤(Dell ACP)上で仮想マシンとコンテナの両方を動かすことができるようになります。今後はオンプレミスでのベアメタルへの導入がDell ACP for Red Hat OpenShiftによって促進されると期待しています」と羽鳥氏は強調した。

日経BP社の許可により2024年1月22日~2024年2月18日掲載の日経xTECH Specialを再構成したものです。
https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/NXT/24/delltechnologies0122/

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