技術・運用・財務から考えるITインフラのあるべき姿 重要なのは「ビジネス価値の最大化」 事例に見るマルチクラウド戦略のこれから

オンプレミス中心からクラウドファースト、さらにマルチクラウドへ――。システム形態のこうした変化は、新たな課題を顕在化させつつある。システムインフラ全体の複雑性が高まることで、運用負荷やコストが増大するようになっているからだ。この問題を解決するにはどうすればいいのか。デル・テクノロジーズでDell APEXのグローバル展開をリードするクリストファー(KC)ファンク氏と、アジアパシフィック地域での展開をリードするカロリス マショオリニス氏に話を聞いた。

マルチクラウドに存在する「バリア」を取り除く

――オンプレミス中心の時代からクラウドファーストへ、そして現在はマルチクラウドへと、企業システムの形が大きく変化しています。このマルチクラウドに向けたIT戦略をどのように立案・実践していくのか、悩んでいる企業も少なくありません。これに対してデル・テクノロジーズは、どのような考え方で臨んでいるのでしょうか。

デル・テクノロジーズ株式会社
シニアダイレクター
グローバルセールス
グローバルスペシャリティセールス
クリストファー(KC)ファンク氏

ファンク氏 ITシステムの形は時代とともに変化していますが、重視すべきことは変わっていません。お客様にとって重要なことはシステムの形ではなく、ソリューションの価値なのです。そしてこれは、大きく3つの要素で構成されています。

第1は「技術」です。ソリューションが価値を生み出すには、十分なパフォーマンスを少ない遅延で実現できるインフラが必要です。第2は「運用」です。管理対象全体を可視化し、リソース利用を効率化・最適化しなければなりません。

そして第3が「財務」です。ビジネス価値を生み出すには、ROIやTCOも強く意識することが求められます。

デル・テクノロジーズがお客様とITソリューションの話をする際には、常にこの3つを念頭に置いています。その上で、そのITソリューションがビジネス価値を生み出せるのかを評価しているのです。

――3つの要素を満たすために、どのようなアプローチを行っているのでしょうか。

ファンク氏 私達の基本的な戦略は「双方向マルチクラウド戦略」です。既に多くのお客様の環境はマルチクラウドになっており、その中には複数のハイパースケーラーとオンプレミス、エッジが存在します。

ここで大きな問題になるのが、クラウド間やオンプレミスとの間でデータを動かすことや、マルチクラウド全体でアプリケーションを管理することが、極めて難しくなっているということです。もちろん日常的な運用も非常に複雑になり、安全性を担保するために冗長化を行えば、財務上の負担も大きくなります。そのためマルチクラウドでは、人的負担やコストを上回るビジネス価値を、生み出しにくいという状況になっています。

デル・テクノロジーズの「双方向マルチクラウド戦略」は、マルチクラウドの中に存在する「バリア」を取り除くことで、これらの問題を解決していこうというアプローチです。互換性や相互運用性、ポータビリティを確保することで、ビジネス価値を生み出しやすくするのです。

オンプレミスの技術をクラウドでも使えるようにする「グラウンド・トゥ・クラウド」、クラウドスタックをオンプレミスに実装できるようにする「クラウド・トゥ・グラウンド」、そしてコンサンプションモデルを提供する「Dell APEX as-a-Service」という取り組みが進められている

――その戦略を実現するための具体的な取り組みについて教えてください。

ファンク氏 大きく3つあります。第1は「グラウンド・トゥ・クラウド」であり、オンプレミス(グラウンド)で活用してきた各種テクノロジーを、クラウドでも利用可能にするというものです。例えばストレージに関していえば、デル・テクノロジーズは高性能でスケーラブルな製品を提供しており、データ保護やレプリケーションなどの機能も装備しています。これをクラウドでも動くようにすることで、オンプレミスと同様の価値をクラウドでも享受できるようになります。

――クラウドのストレージサービスと比較して、具体的にどのようなメリットが得られるのでしょうか。

ファンク氏 例えばAWSで複数のAmazon EC2を動かし、そのストレージとしてAmazon EBSを使うことを考えてみましょう。それぞれのEC2に個別のEBSを接続する必要があるため、あるEBSの容量に十分な余裕がある場合でも、それをほかのEC2に融通するといったことはできません。また60%しか容量を使っていないEBSでも、100%分の料金を支払う必要があります。

しかし、グラウンド・トゥ・クラウドの一環として提供している「Dell APEX Block Storage for AWS」を使えば、この問題は解決可能です。これはデル・テクノロジーズのSDS(Software- Defined Storage)製品であるDell PowerFlexと同等の機能を、AWS上でも利用可能にするソフトウエアで、複数のEBSに接続された複数のEC2ノード上で動かすことで、単一の仮想ストレージを構成できます。

そのためアプリケーションを動かすEC2に対して、ストレージ容量を柔軟に割り当てることが可能なのです。またシンプロビジョニング機能(※)も装備しているため、物理的な空き容量を常に最小化でき、コスト削減も容易になります。

※シンプロビジョニング機能:ストレージリソースを仮想化して割り当てる機能。ストレージ側は、割り当てた「見かけの容量」ではなく、実際に使用されている容量を提供する。そのためストレージの物理容量を削減でき、将来を見越して過剰な容量実装を行う「オーバープロビジョニング」を回避できる

コンサンプションモデルでTCOの削減も可能

――2つ目の取り組みについて教えてください。

ファンク氏 2つ目は「クラウド・トゥ・グラウンド」です。これはクラウドスタックをオンプレミスに持ち込み、オンプレミスでもクラウドと同じ体験を実現するものです。その1つが「Dell APEX Cloud Platform for Azure」です。これによってAzureスタックをオンプレミスに実装でき、Azureスタック上で動くアプリケーションをそのまま動かせます。

ここで重要なのが、Dell APEX Cloud Platformでは必要なハードとソフト、管理ツールなどをセットにして、デル・テクノロジーズが検証した上で提供するということです。もちろんAzureスタックの導入はお客様自身でも行えますが、その場合には少なくとも数週間はかかってしまい、そこからビジネス価値が得られるまでさらに多くの時間がかかってしまうでしょう。またAzureスタックを導入・設定できる人材も必要です。これに対してDell APEX Cloud Platform であれば、ウィザード型の導入ツールによって、納品後6時間以内に利用可能となります。その後のアップデートもデル・テクノロジーズが検証を行ったものを提供し、自動化されたライフサイクル管理機能で適用できます。

またDell APEX Cloud Platform のストレージには、PowerFlexをベースにしたSDSを使用しています。そのためクラウド側にDell APEX Block Storageを導入しておくことで、オンプレミスとクラウドとの間のデータレプリケーションも可能になります。なおDell APEX Cloud PlatformはAzure用に加えて、Red Hat OpenShift用もラインアップしており、近い将来はVMware用も加わります。

――これを活用すれば、クラウドとオンプレミスの相互運用性が高まりますね。第3の取り組みはどのようなものでしょうか。

ファンク氏 Dell APEX as-a-Serviceです。デル・テクノロジーズは以前から「Flex on Demand」という、コンサンプションモデル(従量課金型の料金体系)をご用意していましたが、これをDell APEXブランドでも提供しています。これによってお客様には、オンプレミスに設置したデル・テクノロジーズ製品のキャパシティのうち、使った分だけをお支払いいただくことになります。

――従量課金型であれば、初期投資が抑制できますね。

ファンク氏 初期投資だけではなく、TCOも削減可能です。例えば、5年後に必要となりそうなキャパシティを見込んで、100 TBのストレージを10万ドルで購入したとしましょう。一般的には余裕のあるキャパシティプランニングを行うため、最終的に60%程度までしか使われない、というケースが多いはずです。しかも当初は20%程度で、その後徐々に必要な容量が上がってくことになるでしょう。

これをDell APEX as-a-Serviceでご契約いただいた場合には、初期費用と実際に使用した容量の月額料金をお支払いいただくことになります。20TBから徐々に使用容量が増えて5年後に60%になる、というケースであれば、5年間の料金は5万ドルになります。つまり柔軟性が高くシンプルに調達できるだけではなく、コストの最適化も可能なのです。

アジア地域で先行するDell APEX Cloud Platformの導入・活用

――ここまでで3つの取り組みをご紹介いただきましたが、それぞれについて具体的な事例はありますか。

ファンク氏 それでは私からは、北米大手保険会社の事例をご紹介しましょう。このお客様はオンプレミスで動かしていたいくつかのアプリケーションをAWSに移行する計画を立てていましたが、コスト試算をしたところ、ストレージに予想以上の費用がかかることが分かり、ビジネス価値をどう引き出すかに苦慮していました。また、オンプレミスとの間のデータレプリケーションが難しいという問題も、AWS移行のハードルになっていました。

その解決策として採用されたのが、Dell APEX Block Storage for AWSです。実際にこれを利用したPoCを実施したところ、高いIOPSが求められるケースで87%ものコストを削減でき、データレプリケーションの問題も解消できました。遅延も44%削減され、データ転送スピードは46%向上、データ削減機能によって総容量も29%少なくなっています。もちろん運用も簡素化できました。これらの効果によって、5年間のTCOは1400万ドルも削減され、わずか2年でキャッシュフローをプラスにできる見込みとなりました。

デル・テクノロジーズ株式会社
ダイレクター
Dell APEX アジアパシフィック地域営業部
カロリス マショオリニス氏

マショオリニス氏 私からは東南アジアの鉱山業のお客様が、Dell APEX Cloud Platformを導入したケースをご紹介しましょう。これは世界初のクラウド・トゥ・グラウンド事例です。

このお客様は様々な場所に鉱山を保有しており、それらにエッジコンピューティングを導入していました。しかし本社とエッジで異なるインフラが導入されており、エッジでも場所によって導入されているインフラが異なっている、という状況でした。さらに最近では、各鉱山で使用しているマイニングソフトウエアに必要なコンピューティングパワーが大きくなり、システム拡張が必要になっていました。しかしインフラの一貫性がなく管理が複雑だったため、ビジネス上の目標を達成することが難しくなっていたのです。

この問題を解決するために導入されたのがDell APEX Cloud Platformです。まずは数カ所に展開し、運用の一貫性やTCO削減を実現、今後は展開場所をさらに増やしていく計画です。

――クラウド・トゥ・グラウンドの最初の事例が東南アジアというのは、とても興味深いですね。

マショオリニス氏 東南アジアに限らずアジア地域では、Dell APEX Cloud Platformに興味を持つお客様が数多くいらっしゃいます。特に製造業のお客様では、アプライアンス型でエッジに設置しやすいことが、高く評価されているようです。

――日本市場に関してはどのようにお感じですか。

マショオリニス氏 日本では近年、ITに対する意識の変化が進んでいます。ITを「コストセンター」ではなく、「ビジネスイネーブラー」だと考える企業が増えているのです。このような意識の変化によって、Dell APEXへの関心も高まっています。ITインフラをシンプルにし、そこにかかるコストを低減させることで、ビジネスの売り上げから利益を生み出しやすくなるからです。

――最後にDell APEXの戦略や施策の、今後の展望についてお教えください。

ファンク氏 あらゆる場所で一貫性のあるインフラを実現する、という基本戦略は変わりませんが、その対象となる商材はさらに拡張していく計画です。また、コンサンプションモデルをよりシンプルかつスピーディーなものにしていく、といった取り組みも進めていきます。

私達は既に、マルチクラウドの世界で生きています。これをできる限りシンプルにし、より多くのビジネス価値を生み出せるようにするため、Dell APEXはこれからも進化を続けていくことになるでしょう。

日経BP社の許可により、2024年1月30日~ 2024年2月26日掲載 の 日経 xTECH Special を再構成したものです。
https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/NXT/24/delltechnologies0124/

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