【基幹システム刷新事例】「2025年の壁」を乗り越え、新ステージへ ニッスイが基幹システムの基盤を刷新した狙いとは

「食」の新たな可能性を追求する日本水産(以下、ニッスイ)。同社は、未来志向の事業展開に向け、情報システムの改革に着手。基幹システム基盤の刷新を行った。これにより、不確実な時代の変化に対応した高い柔軟性・拡張性を手に入れるとともに、DX推進に向けた下地を整備したという。ここでは、新生・ニッスイの成長戦略とそれを支える基盤刷新の狙いについて紹介したい。

ミッションの実現を目指しブランドシンボルを一新

日本水産株式会社
執行役員
食品事業副執行、生産部門管掌
事業開発部・
サプライチェーンマネジメント部・
情報システム部担当
中野 博史氏

1911年の創業以来110余年にわたり、日本および世界の「食」を支え続けるニッスイ。水産物のグローバルサプライチェーンを構築し、漁業や養殖などによる水産物の調達・加工・販売を行う水産事業や、国内外で冷凍食品をはじめとする加工食品を生産・販売する食品事業など幅広い事業を展開する。1980年にイワシなどの青魚に含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)の研究を開始、これを医薬品原料や機能性素材として生産・販売するファインケミカル事業にも注力している。

成長を続ける同社だが、懸念事項もある。それは、気候変動などに伴う事業を取り巻く環境の変化だ。「これからも人々により良い『食』をお届けするためには、水産資源の持続的利用や地球環境への負荷低減といった社会課題と正面から向き合う必要があります。そこで、当社では長期ビジョン『Good Foods 2030』を策定し、2030年のありたい姿を『人にも地球にもやさしい食を世界にお届けするリーディングカンパニー』と定義しました」と同社の中野 博史氏は語る。

新たな一歩を踏み出した同社は、ミッションを策定し、ブランドシンボルと新たなタグラインを導入(図1)、今後社名も「株式会社ニッスイ」に変更予定だ。世界中のニッスイグループ企業とともに「食」の新たな可能性を追求する想いを込め、水産という特定の事業を表現した「日本水産株式会社」という社名からの変更を決めた。

ブランドシンボルは世界を意識し、ローマ字表記にした。ニッスイと生活者の双方向コミュニケーションを象徴する、左右からの2つの波のフォルムが結合し全体のフレームを形作る。タグラインにはサステナブルな未来を見据えて進んでいく決意が込められている

「より積極的かつ明快にニッスイが進むべき方向性を伝え、持続可能な社会の実現に向けて成長分野に経営資源を集中していく。こうした事業展開を通じて『食』の新たな可能性を追求し、企業価値の向上を目指します」と中野氏は続ける。

成長分野として重視するのが、養殖事業とファインケミカル事業である。「水産資源を安全かつ安定的に供給する養殖技術、人々の健康に資する商品を開発するファインケミカル技術の研究・開発を推進します。食品事業との相乗効果で成長を図り、現在36%の海外売上比率を2030年までに50%まで引き上げたい」と中野氏は前を向く。

柔軟性・拡張性に乏しい基盤ではDXの推進が困難

日本水産株式会社
情報システム部長
平尾 陽子氏

長期ビジョンの実現には、事業を支える基幹システムの増強が必要になる。特に重要になるのが、商品や素材の受発注から在庫管理、調達・物流・出荷管理までカバーする「受発注・在庫システム」である。「当社のビジネスを支える根幹のシステムである上、日配品も扱っているので、24時間365日止まることが許されません」と同社の平尾 陽子氏は話す。

受発注・在庫システムは2003年にメインフレームを脱し、オープン化した。これを機に業務を支えるアプリケーションもスクラッチ開発した。しかし、そのシステム基盤は前回の刷新から既に7年が経過し「2025年の崖」に直面していたという。

CPUやメモリを追加したくても、もはや“飽和状態”で、思うように増強できない。「パフォーマンスが低下し、処理が遅くなるなどの弊害も目立ってきました。チューニングで乗り切る対症療法では抜本的な解決にはならないばかりか、その作業が運用チームの大きな負担になっていました」と平尾氏は振り返る。

このままでは、長期ビジョンの実現に欠かせないデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進も難しい。「今後はクラウドの活用を加速させ、最新のデジタル技術やデータの利活用を促進したいと考えています。基幹のアプリケーションも将来的にはつくり替えが必要になるでしょう。10年先を見据えた柔軟性・拡張性を実現するため、基幹システムの刷新を計画しました」と平尾氏は語る。

基盤刷新にはもう1つの重要な狙いがあった。それは、業務継続性およびディザスタリカバリ(DR)の強化である。本番環境のデータはディスク・ツー・ディスクでバックアップを行った上で、長期保存が必要なものはテープバックアップを行い遠隔保管している。

しかし、テープバックアップのデータからRPO(目標復旧時点)、RTO(目標復旧時間)の要件を満たしリストアするのは大変な労力を要する。災害時はそもそもリストア作業にあたる人員を十分確保できる保証はない。「早期にシステムを復旧し、事業継続を図る。これは重要な経営課題の1つですが、現行のバックアップ/リストア体制で本当にDRを実現できるのか不安を拭いきれませんでした」と平尾氏は打ち明ける。

先を見据えた提案力とサステナブルな企業文化が決め手

複数ベンダーの提案を比較検討した結果、ニッスイは最終的にデル・テクノロジーズの提案を採用した。現行の3Tier構成を継承する提案が多い中、将来構想まで見据えた提案はデル・テクノロジーズだけだったという。

「インテル® Xeon® スケーラブル・プロセッサー搭載のPowerEdgeサーバーをベースにしたHCIと仮想化技術の活用によってインフラの統合と省スペース化を実現し、なおかつ拡張性が非常に高い。パブリッククラウドとも柔軟に連携し、周辺システムのクラウド活用、さらに将来の基幹システムのクラウド化まで見据えた基盤を構築できる点を評価しました」と平尾氏は話す。

現行システムの保守期限は2023年春のため、それまでに基盤刷新を完了させなければならない。プロジェクトはスピードが求められるが、HCIなら検証済み構成を提供できる。導入から短期間で稼働を開始できることも大きな選定ポイントになった。

DR製品はヴイエムウェアの提案を受け「VMware Site Recovery Manager™」(以下、SRM)を採用した。人手を介さず自動でサイト切り替えを実行できるのが特徴だ。ネットワーク仮想化を実現するために「VMware NSX® 」(以下、NSX) を採用、オンプレミス/クラウド間のDRもシームレスに行える。デル・テクノロジーズ製品との親和性も高い。

新たな基盤の全体構成は図2の通りだ。本番環境のHCIはPowerEdgeサーバーベースのPowerFlexで構成し、バックアップストレージにはPowerProtect DP4400を採用した。WANにつながるスイッチもデル・テクノロジーズのPowerSwitch製品を導入し、「VMware NSX® Advanced Load Balancer™」(以下、ALB)の活用により、ロードバランサーも仮想化した。DRサイトの災害対策・開発環境もほぼ同等の構成である。PowerFlexにて本番環境から災害対策・開発環境へのレプリケーションを行い、有事の切り替え作業は SRM にて行う。

データセンター内のデータ保護に関しては、本番環境、災害対策・開発環境双方で共有ストレージからバックアップストレージへデータバックアップを行い、可用性を高めた。サイト外へのデータ保護に関しては本番環境から災害対策・開発環境へストレージレプリケーションにてデータ複製を行う。本番環境がダウンした場合はSRMから即座に災害対策・開発環境で本番系システムを自動的に起動させることができる

製品や技術面だけでなく、SDGsの考えと活動に共感できたことも大きなポイントとなった。ニッスイはCO2排出量削減やプラスチック使用量削減といったサステナビリティに取り組んでいる。その中で、ITベンダーとの取引においてもSDGsへの姿勢が重要な選定要素になっているという。

「水産加工品を提供する当社にとって、海洋環境の保全は切実な課題です。デル・テクノロジーズは海洋プラスチックの再利用をはじめ、梱包材や製品部材のリサイクル、技術革新によるCO2排出量削減にも積極的に取り組んでいます。デル・テクノロジーズと組むことで、ITを通じてサステナビリティの取組みをより強力に推進していけます」と中野氏は評価する。

パフォーマンスと事業継続性が向上し、運用負荷も軽減

2021年12月よりシステムの導入がスタートした。「コロナ禍による半導体不足が深刻化する中、納期通りに機器を導入・設置してくれたことに感謝しています」と話す中野氏。その後の対応もスピーディで、2022年4月末には本番および災害対策・開発環境の構築と各種設定を完了した。「検証を含めた作業日数は実質4カ月半ほど。予想を上回るスピード感で対応いただきました」と平尾氏は驚く。

現在は現行アプリケーションの新基盤への移行準備が進行中だ。アプリケーション移行後、2022年10月よりその検証やDRテストなどを行い、早ければ年内に基幹システム基盤の新旧切り替えを実施する予定だ。

次期基幹システム基盤は柔軟なシステム構成が可能で、CPUやメモリ増強の拡張性も高い。「CPUを動的に追加できるため、システムを止めずにリソースを増強できる。不確実な時代の中で、ビジネス環境の変化に即応してシステムをスケールアップできるメリットは大きい。全体的なパフォーマンスの向上も期待できます」(平尾氏)。

これによって2025年の崖の課題の1つである「既存システムの維持・保守」の手間が減り、運用負荷の軽減につながる。「その分の人員・コストをDXに充当し、成長分野を支えるシステム開発を推進したい」と中野氏は展望を語る。

事業継続性向上の期待も大きい。NSXはネットワークセグメントを仮想化することにより、本番環境のIPアドレスをDRサイトへそのまま引き継ぐことが可能だ。システム内IPアドレスを変更することなく、DRサイトで本番システムを実行できる。「ダウンタイムの少ない迅速な事業復旧を実現できるのはもちろん、サイトの切り替え作業に膨大な人手を介さずに済むため、DRの対応工数も大幅に削減できます。また、ネットワーク仮想化を採用することにより、今までの様にネットワークセグメントレベルではなく更に細かい粒度でアクセスコントロールが可能な為、システム全体のセキュリティ向上が実現できています」と平尾氏は語る。

ALBの活用により、ロードバランサーも仮想化できたため、ネットワークの設定・管理もソフトウエアベースで容易に行えるという。「平時・有事を含めて基幹システム基盤の信頼性・安定を確保しつつ、既存の物理ロードバランサーでは実現できなかったオンプレミス/クラウドを自由に選択できる柔軟な基盤を整備できたことが最大のメリットです」と中野氏は評価する。

ニッスイは刷新した次期基幹システム基盤を軸に、長期ビジョンの実現に向けたDX戦略と社会的要請の高まるサステナビリティの取り組みをさらに推進し、健やかな生活とサステナブルな未来を実現する新しい「食」の創造にまい進していく考えだ。

日経BP社の許可により、日経 xTECH Special を再構成したものです。
https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/NXT/22/delltechnologies0701/

<前の記事へ   次の記事へ>

About the Author: Dell Technologies