デル・テクノロジーズが推進するパートナー戦略と支援策 なぜサービス型の事業モデルでパートナーが重要なカギを握るのか

現在では数多くの製品がパートナー経由での販売となっているデル・テクノロジーズ。その再販率は既に約6割に上っているという。同社の製品をサービス型で提供するDell APEXでも同様にパートナーは重要な存在である。このような状況の中、パートナーのビジネスをさらに拡大するサービスとして注目を集めているのが、日本市場に2023年5月にリリースされた「Dell APEX Private Cloud」だ。これはどのようなサービスなのか。また、パートナーにとってのビジネス価値はどこにあるのか。デル・テクノロジーズでパートナー事業を統括するキーパーソンに話を聞いた。

この3~4年で大きく変化したデル・パートナーの事業環境

デル・テクノロジーズ
常務執行役員
パートナー事業本部長
入澤 由典氏

1987年、大手外資系IT企業に入社。流通業お客様担当営業部員、営業部長・事業部長を経て、会長補佐、BTO事業営業責任者を担当した後、グローバル製造業お客様担当責任者として2010年に執行役員に就任。その後パートナー事業責任者、ITサービス事業責任者などに従事。2018年10月に現デル・テクノロジーズ株式会社に入社し上席執行役員としてパートナー事業本部を担当。その後2021年に常務執行役員に就任後も同部門をリード。

以前はBTO(Built To Order)による即納モデルによって、PCをはじめとするハードウエア製品の「直販ビジネス」をけん引する企業として知られていたデル・テクノロジーズ。しかし近年は「パートナービジネス」にも注力しており、既に数多くのアプリケーションベンダーやシステムインテグレーターが、デル・テクノロジーズのパートナーとなっている。

現在はストレージ製品の約8割、サーバー製品の約6割をパートナー経由で販売。2023年5月に開催された「Dell Technologies World(DTW) 2023」にも、日本から約80社のパートナーが参加したという。

同社がパートナービジネスに力を入れている理由は、自社が提供する製品やサービスだけでは、企業や組織のITニーズに対応しきれないからだ。ITシステムはインフラだけで実現できるものではなく、その上で動くアプリケーションやインテグレーションも重要な要素。インフラ製品の提供を中心にビジネスを展開しているデル・テクノロジーズにとって、これらのニーズまでカバーするには、パートナーとの連携が大前提になる。

そのパートナーのビジネス環境について「この3~4年で大きく変化しました」と語るのは、デル・テクノロジーズの入澤 由典氏だ。背景としては、2020年3月に本格化した新型コロナウイルス感染症がある。これによってテレワークが一般化し、クラウドやモバイル端末を利用した新たなIT活用が広がっていった。

「出社はできないがビジネスは止められないという状況の中、各種IT製品へのニーズが増大し、クラウドシフトも進みました。しかしその一方で、当社のパートナー様はこれまでオンプレミス中心でビジネスを行っていた企業様が多く、クラウドへのビジネスモデルの転換に悩まれているケースが目立ちます。そのため、インフラのクラウド化が急速に進んでいったのに対し、アプリケーションのクラウドシフトが遅れているのです。これは特に日本で顕著に見られる傾向です」

アプリのクラウドネイティブ化は日本にとって重要課題

アプリケーションのクラウドシフトが進んでいないことは、日本全体の大きな課題の1つだ。DTW 2023に参加した多くのパートナーも、この領域が米国に比べて遅れていることを、痛感していたという。

「既に米国では、約50%のアプリケーションがクラウドネイティブ化されているといわれています。これに対して日本では、新しく開発されたアプリケーションではクラウドネイティブなものが増えていますが、基幹系システムなどの既存アプリケーションでは、未だにCOBOLが使われているという状況です。これらをいかにして早期にクラウドネイティブ化していくか。これがパートナー様を含む“チームジャパン”にとって、喫緊の課題になっているのです」(入澤氏)

既にこのシリーズで解説してきたように、オンプレミスとパブリッククラウドとの間にある壁を解消し、双方向での融合を実現するためにデル・テクノロジーズが提供しているのがDell APEXだ。提供が先行した米国では、パートナーによる再販が60%を占めており、日本でもパートナーによる活用事例が増えている。

その一例として入澤氏が挙げるのが、沖縄電力のグループ会社としてデータセンターを運営するFRTだ。同社は自社データセンターで運用するファイル共有サービスのインフラとして、Dell APEXの1つ「Dell APEX Data Storage Services(ADSS)」を採用。これによって運用工数を大幅に削減しながらセキュアなサービス提供を実現、ビジネス要件に合わせた柔軟な拡張も可能にしているという。

この事例にも見られるように、これまでのDell APEXは主として「データのポータビリティ」を主眼とした活用事例が多かった。しかし最近ではアプリケーションでもポータビリティを可能にするサービスが登場した。それが「Dell APEX Private Cloud(APC)」だ(図1)。

デル・テクノロジーズとVMwareが共同開発したハイパーコンバージドインフラ「VxRail」をベースに、プライベートクラウドを素早く実装できるようにしている

これは、顧客のオンプレミス環境に、クラウド体験が可能な仮想化基盤を迅速かつシンプルに提供するもの。デル・テクノロジーズとVMwareが共同開発したハイパーコンバージドインフラ「VxRail」をベースにしたサービス型モデルであり、検証済みのプライベートクラウドを素早く実装できるという。

先行する米国で増えているAPCによるパートナー事例

デル・テクノロジーズ株式会社
Customer Centric Cloud and Containers, APJ
平原 一雄氏

「既に米国ではAPCの提供を開始しており、数あるDell APEXポートフォリオの中でも高い販売実績を誇ります」と説明するのは、デル・テクノロジーズの平原 一雄氏。その背景としては、顧客が直面する3つの課題があるという。

1つ目は、プロジェクトのリードタイムが短縮化する中で、何らかの成果を出さなければならないこと。2つ目はエネルギー価格などの高騰によって経済環境が悪化し、予算が限られていること。そして3つ目の課題が、新たな取り組みを行う場合でもIT部門の規模は大きくしたくない、というプレッシャーが強いことだ。

「これらの課題は日本企業にも共通していますが、APCが提供するユニークな価値をパートナー様と共に提供することで解決可能です。例えば米国のある事例では、SIerがコロケーションスペースを同時に提供することで、お客様が新たな場所の確保を気にすることなく、新たな基盤を短期間で構築できるようになりました。まさにパブリッククラウドと同様の利用体験で、次期仮想化基盤を実現できたのです。このようなファシリティと一体となったサービス型モデルでの提供というスキームは、パートナー様との相互補完による好事例だといえるでしょう」(平原氏)

これ以外にも、製造業向けの幅広いソリューションを提供する米国PTCが、スマートファクトリー向けソリューションをAPCで提供している事例もある。VxRailの上でエッジ環境のリファレンスアーキテクチャをつくり上げ、それをAPCで展開することでビジネス上のアジリティとスケーラビリティを高めているという(図2)。

VxRailの上でエッジ環境のリファレンスアーキテクチャをつくり上げ、それをAPCで展開することで、スマートファクトリー向けソリューションを提供している

さらに欧米ではVDIを実装する基盤としても、APCの利用が増えつつある。「VDIはインターネット経由のレイテンシがユーザー体験を悪化させる大きな要因になるため、オンプレミスでクラウドライクな体験を提供できるAPCは、パブリッククラウドよりも有利です。また負荷が定常的なのでパブリッククラウドよりもコスト効果が高く、同じ費用で高いパフォーマンスを発揮できるというメリットもあります」と平原氏は説明する。

日本でもAPCの提供を開始、パートナー支援もさらに強化

日本でもDTW 2023に先立ち、2023年5月11日にAPCをリリース。日本ではオンプレミスの運用負荷を軽減したいという需要が多く、このようなフィードバックを踏まえ、APCにアドオン可能なマネージドサービスも開発中だ。

「日本におけるパートナー様のビジネスモデルとしては、APCの上にパートナー様独自の魅力的なアプリケーション商材を載せる、仮想化基盤のネットワークノウハウを盛り込んだシステムを構築する、お客様の環境を熟知した運用支援を行う、といった付加価値提供が考えられます。レガシーなインフラからの脱却をAPCに任せ、自社の差別化要因となる上位レイヤーに注力することで、より高い価値を生み出せるようになるはずです」と入澤氏は語る。実際にパートナーと会話する中でも、この部分に魅力を感じているケースが少なくないという(図3)。

インフラ部分をAPCでレガシーから脱却させることで、上位レイヤーにおけるより大きな付加価値を提供できるようになる

「またパートナー様の中にはパブリッククラウドの有力な代理店や再販業者も多いのですが、APCはVMware Cloudとの親和性が非常に高いので、VMware Cloud on AWSとAPCをつなぐネットワークデザインや、VMware HCXを使ったクラウドマイグレーション支援といったサービスを、ワンストップで提供するといったモデルも考えられます」(入澤氏)

このような取り組みを後押しするため、デル・テクノロジーズのパートナー支援もさらに強化していく計画だ。

「現在既に、パートナー様による仕入れを容易にする購買モデルの開発や、ファイナンス面での支援強化などを検討しています。またデル・テクノロジーズ自身がDell APEXによるマルチクラウドを全面的に押し出した訴求を行うことで、お客様からパートナー様への引き合いが増えるような環境整備も進めていきます。Dell APEXに興味を持つお客様が増えれば、パートナー様のビジネスチャンスも拡大することになるからです」(入澤氏)

またこれまでは、パートナー企業の中でもインフラ系担当者と会話をすることが多かったが、今後はアプリケーション開発やサービス開発の担当者と会話する機会を増やしていく考えだ。「データ基盤に加えてアプリケーション基盤もサービス化していけば、業界の考え方も大きく変わるはず。日本でのAPCのリリースを契機に、ぜひともパートナー様のビジネス拡大を後押ししていきたいと考えています」と入澤氏は先を見据えている。

日経BP社の許可により、2023年7月31日~ 2023年9月3日掲載 の 日経 xTECH Special を再構成したものです。
https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/NXT/23/delltechnologies0731/

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